風童じゅん『GUT's』

Gut’s (1) (講談社コミックス (656巻))

Gut’s (1) (講談社コミックス (656巻))

連載:『月刊少年マガジン』(1998〜2003年)
単行本:講談社マガジンコミックス 全17巻(1998〜2004年)


 テニス漫画としては講談社史上最長の巻数&連載期間の作品。作者の風童(ふどう)じゅんは、F1漫画『HAYATE』で好評価を得た後に本作品で月マガの一翼を担う存在としての地位を確立し、現在は同誌にて自転車競技漫画『バイキングス』を連載中。
 主人公・赤井魔球磨(マグマ)は「速い球を打つ」ことに快感を見い出す俊足の高校二年生で、野球部の豪速球投手を相手に勝負を繰り返していたが、テニスのサーブが野球の投球よりも速いということを知り、テニス界に殴り込みをかける決意をする。当初はテニスのことを何も知らなかった魔球磨が、テニススクールで基礎を学びつつ、やがて様々な「魔球」を編み出していき、世界を舞台に戦うプロ選手へと成長していく。
 個人的に興味深いのは、魔球磨の同級生の渋谷拓巳というライバルの存在である。インターハイ・ベスト4という実績を持ちながら、実質的に途中までは魔球磨の引き立て役でしかなかった彼が、物語後半から魔球磨の本格的な対抗馬として急成長していく過程が非常に面白い。また、最終巻で彼に対して一人の新聞記者が語った言葉は、本作品のみならず、全てのスポーツ漫画のテーマに一石を投じた名台詞だと私は思う。
 この物語の特徴は、上位の大会に出場するためにポイントと賞金を稼いで世界中を回るという現実のATPシステムの枠組の中で物語が進行している一方で、テニス描写においてはケレン味満載の魔球合戦が繰り広げられている点である。作者自身、「テニスの世界をモチーフにして魔球ファンタジーを描いてみたい」と語っていた通り(それは主人公の名前からも明らかなのであるが)、トマホーク、リボルバー、ウォーク・ザ・ドッグなど、実に多彩なトンデモ技が全編通じて乱れ飛んでいる。
 全体的にデフォルメが激しい絵柄なので、好き嫌いは分かれるとは思うが、絵柄の好みだけで価値を判断してしまうにはあまりに惜しい名作である。ちなみに、各巻の巻末には沢松奈生子によるテニスQ&A漫画も載っており、普通にテニスの勉強にもなる。