寺嶋裕二『GIANT STEP』

GIANT STEP(1) (講談社コミックス)

GIANT STEP(1) (講談社コミックス)

連載:『マガジンスペシャル』(2002〜2003年)
単行本:講談社マガジンコミックス(2002〜2003年) 全4巻


 現在、週マガにて高校野球漫画『ダイヤのエース』を連載中の寺嶋裕二の初単行本(初連載?)作品。ちなみに、作者は本作品と『ダイヤ〜』の間にも、1942年の徳島商業の実話を描いた『幻の甲子園』というドキュメント漫画(読み切り)を週マガで描いている。
 ヤクザの組長の息子である主人公・海老原侠一が、仲間を集めて休部中だった紫雲山高校の男子テニス部を再建し、「天下を取る」ことを目指して高校テニス大会・団体戦に出場する、という物語。「超越した身体の記憶力」と(色々な意味で)「常識はずれのセンス」を持つ侠一は実に独特な魅力を持った主人公で、物語序盤は彼の天然っぷりが最大の見どころ。やがて、彼の周囲に様々なサブキャラ達が集う訳だが、彼等もまた様々な「二面性」を持った個性的な面々で、それぞれに独自の味がある。また、所々に鏤められた小ネタ/小オチも非常に小気味良く、物語全体を通じてのテンポも良い。
 特に圧巻なのは、侠一が尊敬する最強の女子プロレスラージャイアント子安(通称:ジャイ子)の存在である。彼女自身が登場する場面は少ないのだが、そのインパクトは絶大で、物語の随所に登場する彼女の「語録」は、登場人物達のみならず、読者の魂をも揺さぶる。そして、彼女のプロレス技を参考に主人公が様々な必殺技を編み出して行く過程もまた痛快である。
 テニス描写の系譜としては魔球系の要素が強いが、さすがに極道の息子だけあって、試合によっては格闘テニス的展開になることも多い。ただ、どちらかというと細かい技術論よりも精神論的な描写の方が印象に残りやすいかな、とも思う(そういう点も、極道的と言えば極道的である)。
 惜しむらくは、わずか4巻で終わってしまっている点である。個人的に大好きなキャラ達が多いので、もう少し彼等の活躍を見たかった。ただ、物語全体としては、確かにこの辺りで余韻を残して終わらせたのは正解だったのかもしれない。とりあえず、『ダイヤのエース』が好きな人々なら、きっと楽しめる作品だと思う。