峰岸とおる『ファイアーショット』

連載:不明
単行本:集英社創美社)ジャンプスーパーコミックス(1984年) 全1巻


 『素晴らしきバンディッツ』や『あばれ隼』などで有名な峰岸とおるの描いた、実在のテニス選手達が登場するテニス漫画。作者は他にも『怪物キヨマー』や『大リーグスーパースター物語』などの実在の選手を題材にした作品を残している。ちなみに、掲載誌はクレジットがないので不明だが、単行本のレーベルから察するに、おそらくジャンプ系の増刊号の類いではないかと思われる。
 日本でテニスのエキジビション・マッチ「ヨントリー・カップ」が開催され、ジョン・マッケンロージーミ・コナーズ、ビヨン・ボルグの三名が顔を揃える中、病欠したイワン・レンドルの代役として、16才の日本人選手・鷹木順平(主人公)が登場するところから物語は始まる。当初は全く無名の存在であった順平が、世界のトップ選手を相手に大激戦を繰り広げる様子が、単行本一巻を通じて描かれる。
 テニス漫画に実在の選手が「一時的なゲスト」として登場することは稀にあるが、本作品は世界のスーパースター本人との戦いを描いた、実に大胆不敵なコンセプトの作品である。作者の似顔絵のセンスも悪くなく、三人のスター選手も上手く特徴を捉えてリアルに描かれていると思う。
 そして、題材がリアルであるが故に、そんな彼等を相手に16才の日本人が奮闘する本作品は、ある意味で歴代でも最も非現実的なテニス漫画と言えよう。勿論、そんな非現実を可能にするためには「魔球」が必要となるのだが、本作品の特筆すべき点は、途中から実在の選手達もまた、その魔球を破るための魔球を開発して応戦する、という展開である。おそらく本人達の承諾を得ぬまま描いた作品なのであろうが、ここまで好き放題に描くことは、おそらく今では許されないのではなかろうか(ちなみに、ヒロインの名前は「早見夕子」である。さすがにこちらは漢字も変えてある辺りに配慮が感じられる)。
 まぁ、色々な意味で「マニア向け」の域を出ない作品ではあるが、個人的には結構楽しめた。ただ、真面目なテニスファンは読まない方がいいかもしれない。あくまで、シャレの分かる人向き、かな。