宗美智子『アドバンテージ昇悟!』

アドバンテージ昇悟! (マーガレットコミックス)

アドバンテージ昇悟! (マーガレットコミックス)

初出:『別冊マーガレット』(1981年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1982年) 全1巻


 『はずんでイッキ!』の宗美智子が、同作品よりも前に『別冊マーガレット』で描いていた作品。厳密には、この単行本は三本の短編という形式を取っており、表題作の他、「ウイニング・ショット昇悟!」「ラブスマッシュ昇悟!」が収録されているのだが、実質的にはこの三本で一つの連続した物語となっているため、まとめて一本の作品としてレビューする。
 主人公は、一年にして高校テニスの大阪大会を制した経験を持つ加藤昇悟と、その幼馴染みの三野初鹿(みの・はつか)。天性の才能を持ちながら、精神的未熟さ故に伸び悩んでいた昇悟の前に、元全日本優勝者である津崎正義がコーチとして現れるところから物語は始まる。短気な昇悟は津崎の指導に反発しつつも着実にテニス選手として成長し、それを初鹿が陰から精神面で支えていくことになる。
 『はずんでイッキ!』に比べるとテニスの試合自体が描かれる割合は低く、どちらかというと昇悟と初鹿の不器用な恋の進展の方に主眼が置かれているが、このドラマの組み立て方が実に上手い。粗暴な性格故に周囲の不評を買いやすい昇悟にとっての最大の理解者であり、テニス選手としての彼の成長を常に願いながらも、徐々に昇悟が自分にとって「遠い存在」となっていくことに寂しさを覚える初鹿の心情描写は実に繊細で、読者の心を打つ。
 そして、もう一つのドラマの軸となるのが、昇悟と津崎の師弟関係である。昇悟を厳しい言葉で罵倒しながらも、自分の過去に照らし合わせながらテニス選手としての彼に期待をかける津崎の思いは、本作品の前日談にあたる『ふたりのシーズン』を読むとより一層深みを増す。
 テニス漫画としてはやや描写が薄くて物足りない感はあるが、「テニスを題材とした恋愛漫画」としてはかなり高度な完成度の作品と言って良いと思う(まぁ、単純に私がこの人の作風が好きなだけかもしれないが)。名作『はずんでイッキ!』の原点として、という歴史的価値だけではなく、純粋に一つの作品として十分に楽しめる内容だと思う。