本宮ひろ志『硬派銀次郎』

連載:『月刊少年ジャンプ』(1975〜1978年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(1976〜1979年) 全9巻
    集英社漫画文庫(1984〜1985年) 全8巻
    集英社ジャンプコミックスデラックス(1986年) 全5巻
    集英社文庫コミック版(1996年) 全8巻


 『男一匹ガキ大将』などで黎明期のジャンプを支え、『俺の空』『サラリーマン金太郎』などのヒット作を生み出した巨匠・本宮ひろ志が『月刊少年ジャンプ』で描いた作品。続編に、高校生編を描いた『山崎銀次郎』があり、文庫版ではこれを含めて全8巻に再編集されている。
 主人公は、長屋で幼い弟の世話をしながら新聞配達によって生計を立てている勤労中学生・山崎銀次郎。恋人のたか子や、コオロギ、勝などの仲間達と共に様々なトラブルに立ち向かっていく、というのが本作品の概要である。タイトルから、よく番長漫画の類いだと思われがちだが(確かに喧嘩の場面も多いのだが)、むしろ本作品の本質はさわやかな青春スポーツ漫画である。作中で銀次郎はアメフト、柔道、スキー、陸上など、様々なスポーツに挑戦するのだが、単行本七〜八巻(文庫版四巻)では、怪我をした天茶中学テニス部のエース・沢松新吾の代役として、新吾の妹・理恵と共に混合ダブルスでテニスの大会に出場することになる。
 銀次郎は短期間の間にテニスの基礎を学び、同時に理恵との間での意思疎通を深めたことで、日本全国から集まった猛者達を相手に、素人とは思えぬ大奮戦を繰り広げる。無論、その展開は無理があると言えば無理があるのだが、そんなことを気にさせない勢いで物語を盛り上げる技法は、さすがに天下の本宮ひろ志である。特に二回戦の対戦相手である亜利矢中学戦などは、同じ混合ダブルスを描いたその後の『テニスボーイ』などでは描けない、本作品特有の作風と言えよう。
 そして本作品の最大の魅力は、なんと言っても銀次郎の「侠気」であろう。こればかりは、実際に読んでもらわねば伝わらない。あえて言葉にまとめるならば、JC版第8巻の73〜74頁の高子の台詞こそが、おそらく最も端的にそのことを示していると言えよう。テニスへの興味の有無に関わらず、幅広い層に読んで欲しい普遍的名作である。