金子節子『オッス!美里(ミリ)ちゃん』

オッス! 美里ちゃん 2 (集英社文庫(コミック版))

オッス! 美里ちゃん 2 (集英社文庫(コミック版))

連載:『りぼん』(1979〜1981年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(1980〜1981年) 全5巻
    集英社文庫コミック版(2000年) 全3巻


 『どろんこアドバンテージ』の作者である金子節子が、同作品の前に描いていたマルチスポーツ漫画。少女漫画時代の作者の作品の中では最も著名(かつ最長)であり、後に文庫版も発売された。
 主人公は、身長130cm台の中学生・桜美里(さくら・みさと/通称:ミリ)。彼女が体格のハンディをもろともせず、バスケ、バレー、剣道、サッカー、卓球など、様々なスポーツに挑戦しつつ、長身のボーイフレンド・石垣順との間でほのかな恋を育んでいく、という物語。そして単行本版の第2巻〜第3巻(文庫版の第2巻)では、テニス部に入部した彼女の活躍が描かれているのである。
 興味本位でテニス部の練習に参加していた美里の前に、ジュニア大会三位の実績を持つ転校生・望月かおりが現れるところから物語は始まり、様々な経緯の末、かおりと美里はダブルスを組んで、かおりの母校の星蘭学園のペアと対決することになる。テニス描写自体はその後の『どろんこアドバンテージ』に比べるとまだ中途半端ではあるが、美里が基礎からテニスを学ぶ過程は丁寧に描かれている。
 コンセプト的には、同時代の『うわさの姫子』や、後の同誌の『いるかちゃんヨロシク!』などにも通じる作品なのだが(特に後者とは主人公の体格など、共通点も多い)、これらが一種の「小中学生にとっての理想郷」を描いた作品であるのに対し、本作品ではより読者に身近なレベルで、美里を初めとする登場人物達の一人一人に課せられたドラマと、その中での各人の心情描写が実に細やかに描かれている。また、かおりはこのテニス編の後も何度か物語に登場することになるのだが、このような形でサブキャラ達の物語もきっちり最後まで描いてくれるところが嬉しい。
 個人的に大好きな作品なので、私が四の五の解説するよりも先に読んで欲しい、というのが本音なのだが、あえて一言で本作品の魅力を伝えるとしたら、それは「暖かさ」であろう。スポーツにおいても恋愛においても、絵柄も描写も展開も、とにかくひたすら「心暖まる作品」である。