小谷憲一「彼女にコミュニケーション」(『小谷憲一短編集1 ショッキングMOMOKO』収録)

小谷憲一短編集 (ジャンプコミックス)

小谷憲一短編集 (ジャンプコミックス)

初出:『ジャンプオリジナル』(1990年)
単行本:集英社ジャンプコミックス小谷憲一短編集1 ショッキングMOMOKO』(1991年)


 『テニスボーイ』や『Doubles』などで有名な小谷憲一が、月ジャンの増刊号に相当する『ジャンプオリジナル』にて掲載した作品。その後、単行本としては『小谷憲一短編集1 ショッキングMOMOKO』に収録された。
 主人公は、私立鳳凰学園高校の一年生でテニス部員の稲澄努(いねずみ・つとむ)。158cm/48kgという小柄な体型ながら、中学時代には全国制覇も成し遂げたことがある彼が、両親の海外赴任の見送りのために訪れた新東京国際空港にて、日系アメリカ人のレイ・バレンティーノと出会うところから物語は始まり、日本語が話せない彼女との意思疎通に苦戦しながらも、彼女を付け狙う謎の組織との戦いに努が巻き込まれていく様子が描かれていく。
 同じ単行本に掲載された「素敵なエイリアン」と同様、本作品も基本的には作者の最も得意とする「美少女漫画」であり、長身・グラマーな美少女であるレイの魅力を描くために構築された作品であることは間違いない。一応、物語としてはまだ本作品の方が一つの陰謀劇としてきちんと構成されてはいるが、それは決して本作品の中での中心的要素ではなく、あくまでもこの人の単独名義での作品は「キャラ萌え漫画」であると割り切って読んだ方が楽しめると思う。
 テニス自体の描写は実は冒頭で若干描かれるのみであり、あとは「素敵なエイリアン」同様、最後のアクションシーンで彼のテニス技術が役に立つ、という程度である。というか、実際のところ努の設定はテニス選手でなくても良かったように思えるのだが(確かに上記の最後の場面は重要な見せ場なのだが)、それでもこの設定を選んだのは、テニス漫画で身を立てた作者のこだわりだろうか(それとも、昔のファンへのサービスなのだろうか)。
 絵柄としては、昔のタッチから今の画風に変わろうとする転換期の頃の作品なので、ある意味でこの時期が一番幅広いファン層に受け入れられる絵なのかもしれない。そんな訳で、彼の作品が好きな人なら、一度は読んでおく価値はあると思う。