山下東七郎『SMASHしまっす!!』

Smashしまっす!!―山下東七郎短編集 (ジャンプコミックス 山下東七郎短編集)

Smashしまっす!!―山下東七郎短編集 (ジャンプコミックス 山下東七郎短編集)

初出:『ジャンプオリジナル』(1993年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(1997年) 全1巻


 サッカ−漫画『ハット・トリック』や、ビリヤード漫画『POOL PLAYER ISABU』などを発表した漫画家・山下東七郎の短編集の表題作。厳密に言うと、同タイトルの読切漫画が二本収録されており(両作品間の物語的な連関性は全くない)、一本目がテニス、二本目が卓球を題材としている(一応、二本目もテニスが絡んではいるのだが、このレビューで扱うのは一本目のみ)。なお、作者は近年は小学館から、松井秀樹公認の自伝漫画も出版している。
 主人公は、テニスの名門・私立帝北高校の男子テニス部の次期主将に選ばれた伊加川椎名(いかがわ・しいな)。彼が、女子部の前キャプテン・糸島への自分の想いを伝えるため、帝北テニス部の部長引継の伝統的儀式である「男子部と女子部の新旧キャプテンによる混合ダブルス」に、女子部の新キャプテンであり彼の幼馴染みでもある杜都(もりと)いづみと共に臨もうとする、という物語。
 絵柄的には、人物の表情の描き方などに少しクセがあり、また作者としてもまだデビュー間も無い頃であったためか動きなどの描写も粗く、まだまだ未完成の画風、という印象が強い。ただ、漫画としての構図・コマ割などのレベルでは特に読みにくさは感じさせないので、新人にしてはソツなくまとめられた作品であると思う。
 基本的に、作品の中核を成しているのは伊加川の糸島への慕情を中心とする恋愛物語であり、テニス描写に関しては(最後の見せ場ではあるものの)あまり丁寧に描けているとは言い難い。ただ、全体的に伊加川のハイテンションな性格とそれに巻き込まれる周囲のリアクションを描くことを目的とした作品である(と思う)ので、そこまで濃密なテニス描写を求めるのも筋違いかな、という気もする。
 まぁ、ベタと言えばベタな展開であるし、あまり特筆すべき点も無いと言えば無いのだが、カルいノリで気楽に読める作品であり、私の中での評価としてはそれほど悪くもない。ただまぁ、それほど多くの人々にお勧め出来るほどの完成度ではないな、と思うのもまた事実である。