荒井涼助(原作)/三山のぼる(漫画)『トップ・スピン』

トップ・スピン 1 (BEシリーズ)

トップ・スピン 1 (BEシリーズ)

連載:『コミックBE!』(1990〜1993年)
単行本:光文社コミックス(1991〜1993年) 全4巻


 かつて光文社が発行していた雑誌『コミックBE!』にて連載された作品。三山のぼるはジャンプ出身の漫画家で、代表作としては『女フィスト(メフィスト)』『ピカイチ』『麗羅』など。荒井涼助は本作品の他に『九龍の牙』(画・やまだ哲太)、『童乱』(画・石川優吾)、『2・4・6』(画・加登屋みつる)などの作品でも原作者としてクレジットされている。
 物語は、12才で全日本チャンピオンとなった天才テニス少女・熊谷スピンと、女好きでトラブルメーカーな男子テニス選手兼コーチの刈羽墨準一(通称・ジュンコ)が出会うところから始まる。ブラジルの孤児院で育ち、その時に男性に襲われた経験故に自閉症となってしまったスピンが、脳天気に明るく、それでいて包容力のあるジュンコの指導によって少しずつ人間性を取り戻しつつ、テニス選手としても成長していく、というストーリー。
 掲載誌が青年誌だったこともあり、特に序盤はジュンコと他の女子選手達とのベッドシーンが頻繁に描かれているが、段々と物語が後半に進むにつれて、ドイツ、アメリカ、スペイン、中国、アルゼンチンなど、世界の様々なライバル達とスピンとの戦いを中心とする正統派スポーツ漫画へと変貌していく。作品名でもある強烈なトップスピンをかけた両手打ちアンダーサーブや、剣術の技術を応用したアンダースピンショットなど、様々な必殺技を繰り出していく展開は、まさに少年漫画の王道的ストーリーである。
 また、作者自身のテニスに対する独自の思想も随所に垣間見れる。特に、軟式出身の猿丸綾乃との対決におけるジュンコの台詞に現れている日本テニス界への強烈なアンチテーゼは非常に挑戦的であり、その思想に賛同するか否かはともかく、色々な意味で印象的かつ刺激的な物語に仕上がっている。
 マイナー誌掲載のため発行部数が非常に少なかったようで、特に後半の巻の入手は現在では非常に困難である。文庫化の望みも薄そうなので、読みたい人は古本屋で見かけた時には(巻の順番に関係なく)即購入しておくことをお勧めする。