池沢理美『アクマで純愛』

連載:『別冊少女フレンド』(1989〜1990年)
単行本:講談社別フレKC(1990年) 全2巻


 『ぐるぐるポンちゃん』『オセロ』『天使のフェロモン』などで有名な池沢理美が別冊少女フレンドで描いた連載作品。正確には1990年の5月号までが本編で、その後、7月号に続編としての「番外編」が描かれた(単行本二巻に収録)。近年の作者は別冊フレンド増刊で『ぐるぐるポンちゃん・おかわりッ!』を連載中。
 主人公は、高校一年生の女子テニス部員・吉村明子。友達からは「あっこ」と呼ばれている彼女は、端正な顔立ちでありながら、中学時代にその恵まれた容貌故に女子達から嫌われていた苦い経験から、高校ではなるべく目立たず自分の容姿をひけらかさぬ生き方を貫いていた。しかし、そんな彼女の美貌に気付いた男子テニス部の先輩に気に入られたことで、彼女の高校生活は様々なトラブルに巻き込まれてしまう。そして、そんな中で彼女の中に眠るもう一人の人格「あきこ」が目を覚ますことになる。
 本作品のウリは「二重人格の主人公」と、そんな彼女の周囲の男性陣達の複雑な恋愛模様、ということになるのだろうが、私としてはむしろ、本作品に登場する傍役の女性陣達の方が印象的であった。なんというか、この人は女性の中にある「イヤな側面」「汚い側面」を描き出すのが上手い人だなぁ、とつくづく思わされる。もっとも、女社会を知らない身としては、このような女性同士のドロドロ関係がリアルなのかファンタジーなのかは分からない訳だが。
 主要人物の大半はテニス部員なので、「テニス部漫画」であることは間違いないのだが、試合の場面は少ない。ただ、物語の重要な局面(第一巻のラストなど)において、彼女達がテニス部員であるという設定が展開に反映されているので、ただの背景設定で終わっている訳ではない。
 ちなみに、作者のホームページでの解説によると、主人公と最終的に恋仲になる男性は、当初の予定ではここまで本編に絡ませる予定のキャラではなかったらしいのだが、私は序盤の段階から、主人公とくっつくのは彼だろうと感じていた。読者にそう思わせたということは、既にその時点から、作者の無意識のうちに「キャラの一人歩き」が始まっていたということなのだろう。