庄司陽子「あなたがいるから誕生日(バースデー)」(『花樹林』収録)

花樹林 (MiMi KC)

花樹林 (MiMi KC)

連載:『mimi』(1979年)
単行本:講談社mimiKC『花樹林』(1980年)


 『ラストショット』や『ダーリン騎士団』の作者である庄司陽子が、その両作品のちょうど狭間の時期に描いたテニスを題材とした短編漫画。単行本としては『華樹林』に収録(同時収録は他に「旅路」)。昨今の作者は代表作である『生徒諸君!』の続編である『教師編』を、『BE LOVE』にて連載中。2007年には同作品シリーズとしては通算五回目の映像化(ドラマ化)も果たした。
 物語は、主人公である高校三年生のテニス部員・池田周子が、恋人である同じテニス部の男子部員・高遠ゆずるとテニスの練習試合をしているところから物語は始まる。彼女は高遠の恋人としての誠実な態度には感謝していたものの、どこかで物足りない、満たされない感情を持て余していた。そんな中、テニス選手としてより上を目指したい彼女の望みが叶い、インターハイ優勝経験者でもある御剣晃(みつるぎ・あきら)が高校に臨時コーチとして赴任したことから、少しずつ彼女の人生が変わっていくことになる。
 本作品の主体はあくまでも恋愛であり、その意味では『ラストショット』と同様、あくまでもテニスは背景設定にすぎないのだが、それでも練習や試合の描写は実に丁寧であり、テニス部としての緊迫感や臨場感は伝わってくる。この辺りが、作者のテニスというスポーツへの愛着は本物なのだということを実感させられる一面と言えよう。
 とりあえず、読後の第一印象としては、「そう、女性ってのはそういう生き物なんだよなぁ」という気分にさせられた。そして、この物語に心から共感出来る女性とは、私はきっと付き合えないのだろうなぁ、とも思う。良い悪いの問題ではなく、それは生き方というか価値観の問題なのだから、やむを得ぬことなのだろう。漫画としてはやや切れ味の悪いラストとなっているが、これはこれで、こういう作品もアリだと私は思う。
 ただ、やはり男性側の心理描写が一切無いので、どうにも展開が唐突に思えてしまう。これは、私が男性だからそこに引っ掛かってしまうののか、女性読者でも同じ感想を抱くものなのか、一度誰かに聞いてみたいところである。