佐々木潤子『ラフ☆原石☆』

ラフ☆原石☆ (YOUNG YOUコミックス)

ラフ☆原石☆ (YOUNG YOUコミックス)

初出:『コーラス スペシャル』(1995年)
単行本:集英社ヤングユーコミックス(1997年) 全1巻


 『風の生まれるところ』や『Smooth or Rough』の作者である佐々木潤子の短編作品。表題作として、「鏡の国の…」「日のように月のように」を同時収録する形で単行本化されている。
 主人公は、OLの武田命(みこと)。恋人の一矢(かずや)や友人達と友にオーストラリア旅行に来た彼女が、一矢とのテニスに興じている場面から物語は始まる。今の自分の「普通の人生」に不満を感じ、「自分だけの何か」を求めていた彼女が、オーストラリアのダイヤモンドの研磨工場で「Takehito」と呼ばれる日本人に出会ったことを契機に、自分にとっての「ダイヤの原石」を探し始める、という物語。
 基本的には、「自分の人生について悩むOL」の物語であり、「普通の幸せ」に安住する心と「特別な存在」に憧れる心の狭間で揺れる女性心理の葛藤と、彼女等を取り巻く男性陣との人生観の対比が描かれていくことになる。
 正直、主人公以外の登場人物の感情の描写が今一つ希薄で、各人の(特にTakehitoの)「本音」が分かりにくいため、読者としては今ひとつ物語に入り込みにくい。最終的に物語として伝えたいテーマには個人的には共感出来るのだが、最後の結論の出し方が唐突であるし、なんか今ひとつ消化不良のまま終わってしまった感は否めない。でもまぁ、それがこの人の作風なのだと割り切れば、それもそれで一つのスタイルとしてはアリなのかもしれない。
 とはいえ、やっぱり、この人はスポーツ漫画描いてナンボの人だよなぁ、というのが正直な実感である。テニスの描写は冒頭を含めて二回(数コマ)しか登場しないのだが、実に躍動感のあるタッチで命や一矢の動きが描かれているし、単行本に同時収録されている短編においても、やはりスポーツの場面の描写の方が生き生きと描けている。なので、本作品でも、もう少しこっち方面でも盛り上げて欲しかったというのが本音である(まぁ、ストーリーの展開上、それが無理なのは分かっているのだが)。