江川達也『東京大学物語』

東京大学物語 (1) (ビッグコミックス)

東京大学物語 (1) (ビッグコミックス)

連載:『ビッグコミックスピリッツ』(1992〜2001年)
単行本:小学館ビッグコミックス(1993〜2001年) 全34巻


 『まじかる☆タルるートくん』や『日露戦争物語』などで有名な江川達也の最大のヒット作。ビッグコミックスピリッツで(幾度かの休載を挟みながら)長期連載され、1994年にドラマ化、2004年にOVA化、2006年に映画化を果たした。近年の作者はバラエティタレントとしても活動中。
 主人公は、函館向陽高校3年生の村上直樹。IQ300の頭脳を持つ文武両道・容姿端麗のエリート学生である彼が、悪友の佐野に連れられて女子テニス部の試合を観戦していた時、同部一の美少女・水野遥に一目惚れするところから物語は始まる。その後、村上と付き合うことになった遥は、彼と一緒に東大に行くために真剣に勉強に打ち込むようになる一方で、村上は遥との交際を契機として、それまで表面化しなかった男性としての欲求・妄想に深く捕われると同時に、自分と正反対の彼女の価値観に直面することで、それまでの人生観の転換を迫られることになる。
 優等生が恋愛を契機に人生を踏み外す、というのはよくある話だが、教師経験のある作者ならではのリアルな舞台設定と、その中で繰り広げられる村上や遥を中心とした非常識かつ破天荒な恋愛劇のギャップが、実に面白い。序盤は村上の妄想の中だけで収まっていた性的描写が、中盤以降は急速に過激化し、最後は18禁スレスレの内容にまで発展することになるが、それもまた本作品のギャップ演出の一環として楽しむべきであろう。
 ちなみに、本作品における「テニス」の位置づけであるが、一見すると最初の冒頭部分のみの演出のように思えるが、実は作品全体の中でこの「遥のテニスシーン」が占める割合は極めて高い。最終巻まで読むことで初めて理解出来るのであるが、実はこの物語の約99%が「テニス」に集約されていると言っても過言ではないのである。
 そして本作品のラストは、衝撃の「二重(四重?)オチ」で幕を閉じる。このことに関しては批判も多いが、私は(山崎編のオチには納得出来なかったが)この壮大かつ荒唐無稽な物語のラストとして、このような形で終わらせるのは、ある意味で一番正解なのではないかと思う。おそらく、作者が一番言いたかったことは、この最終回に全て集約されていると思うしね。