池田悦子・はやかわ文子『ディアナの戴冠』

ディアナの戴冠〈第1巻〉 (1982年) (ボニータコミックス)

ディアナの戴冠〈第1巻〉 (1982年) (ボニータコミックス)

連載:『月刊ボニータ』(1981-1982年)
単行本:秋田書店ボニータコミックス(1982-1983年) 全3巻


 『悪魔(デイモス)の花嫁』(作画・あしべゆうほ)などで有名な漫画原作者・池田悦子と、『聖夜魔宴』や『モザイク都市』などで有名なはやかわ文子が、『月刊ボニータ』で描いた連載作品。単行本は全3巻にまとめられ、第2巻の巻末には「トマト畑のサリーちゃん」、第3巻の巻末には「夜想曲ノクターン)」が収録されている。残念ながら、両者共に近年はあまり活発には活動していないらしい。
 主人公は、19才の覆面テニス選手・額田巽(ぬかだ・たつみ)。1年前、富豪・本匠家の屋敷の使用人・美和に拾われた彼は、彼女の紹介で屋敷のテニスコートの番人として雇われながら密かにテニスの腕を磨き、遂には日本一の座を勝ち取ることになる。しかし、その優勝の祝賀会の場で、スイスから帰ってきた本匠家の一人娘・瑠璃子の軽い悪戯心が引き起こした事件が、彼等の運命を大きく狂わせていくことになる。
 物語は、巽を巡る美和と瑠璃子の三角関係、そして巽が覆面として用いている黒リボンにまつわる過去の因縁の解明という、二つの軸を中心に展開されており、その中で「テニス選手としての巽」の活躍も描かれることになるのだが、結局最後までまともに彼に対抗出来るライバルも登場しなかったため、テニスの場面の頻出度の割には、「テニス漫画」としての印象は薄い。しかし、巽達のテニスのフォームの描き方は実に見事であり、少女漫画としては十分すぎるほどのスポーツ描写と言える。
 本筋の方は、やや無理のある展開が多いものの、起伏の激しい場面の連続で読者を飽きさせない。巽、美和、瑠璃子、そして彼等を取り巻く周囲の人々が、自らの愛とエゴを剥き出しにしながらも、それぞれの罪悪感との葛藤に苦しむ姿は、実に情熱的で印象深い。
 正直、個人的には最後まで巽に感情移入しきれなかったというか、彼の「心変わり」がどうにも理解出来なかったのだが(それは純粋に女の趣味の問題かもしれないが)、「選ばれなかった人々」も(安易な救済策を採る訳でもなく)それなりに納得した形でのラストになっていた点は評価したい。まぁ、誰に肩入れして読むかによって、読後の印象も変わってくるタイプの作品だと思うけどね。