司敬「Gペンとラケット」

初出:『週刊少年マガジン ヤング別冊』(1980年)
単行本:未発売


 近年ドラマ化された『夜王』『嬢王』『女帝』『帝王』などの「ネオン街モノ」の原作者として有名な倉科遼(くらしな・りょう)が、「司敬(つかさ/けい)」名義で『週刊少年マガジン ヤング別冊』1980年新春号に描いた短編作品(絵も本人が担当)。司敬時代の代表作としては『武田みけん星』などがある。近年の作者は漫画原作者としての活動を続ける傍ら、編集プロダクションとしての「株式会社フリーハンド」の経営も務める。
 主人公は、アシスタントをしながら漫画家を目指す17才の吉田末吉。編集者から「自分の好きな女の子の話」を描いてみるように勧められた彼は、密かに片想いしている近所の女子校のテニス部の早瀬久美子(小柄・ソバカス・短い三つ編み)をモデルとした漫画を描いてみようと考えるも、うまくまとまらない。そして、久美子と会うとつい憎まれ口を叩いてしまい、彼女と仲良くなることも出来ずに苦悩することになる、という物語。
 まぁ、本編自体はベタな内容で、「漫画家漫画」としてもさほど目新しさはないが、短い頁数で綺麗にまとめた話、という印象(ラストのコマは正直どうかと思うが)。この時代の作品としては絵も上手いし、昨今の作者が「漫画原作者」の立場に専念してしまっているのは(実際、それでヒット作を連発しているのだが)少し惜しい気もする。
 テニス描写に関しては、後半で久美子のテニスシーンが描かれることになるが、それなりのレベルで描けてはいるものの、肝心のドロップボレーのフォームが微妙であるし、コーチングの反則について触れていない辺りから察するに、あまりテニスに関して予備知識は無いまま描いていたことは伺える。
 とはいえ、個人的には本作品のような「ストーカー風味の恋物語」は嫌いではない。モテない&サエない少年が、せめて漫画の中でくらい、このような「身近な少女を題材とした妄想」に浸りたいという願望は、今も昔も変わらないのだと思う。そして、そんな妄想を心から楽しめるのは、我々のような「満たされない青春」を送ってきた者達だけに許された特権なのだと、ちょっとくらい強がらせてもらっても良いではないか。