野村歪「ラフ オア スムース」

初出:『週刊少年ジャンプ』(1988年)
単行本:未発売


 手塚賞に入選した新人漫画家・野村歪(ひずむ)が1988年の『週刊少年ジャンプ』第44号に掲載した51頁のデビュー読切作品。作者の経歴については一切不明で、本作品以降に(少なくとも「野村歪」名義では)作品を発表した形跡もない。
 物語は、無礼で乱暴者のテニス選手・不和猛が、欧州への留学生選考を兼ねた全日本オープンの15才以下決勝戦において、テニス界のサラブレットと呼ばれるスター選手・氷室直也と対決するところから始まる。激戦の末、最後は微妙な判定で氷室の勝利となるも、不和はそのジャッジに納得出来ず、氷室が欧州留学から帰って来る3年後の雪辱を目指す。そして実際に3年後のアマチュアテニス選手権で、二人は再戦することになる。
 ひたすら野蛮で短気でハングリー精神に溢れる不和と、ひたすら高慢で冷淡でプライドの高い氷室という、スポーツ漫画としてはまさにテンプレ通りの構図であるが、感情表現がストレートでテンポが良く、読んでいて小気味良い。不和は「打球を相手にぶつけて、試合続行不能に追い込む」という武偉タイプの選手なので、読者によっては拒絶反応を感じる人も多いだろうが、これはこれでジャンプとしては王道のスタイルである。
 ただ、新人とはいえお世辞にも絵が上手いとは言えず、フォームの描き方もかなり粗い。しかも、シングルスでサイドラインの扱いを間違えるという、テニス漫画としてはかなり初歩的なミスを犯してしまっている。作中で中途半端に戦術論を語ってしまっているだけに、このような素人っぷりが露呈してしまう大チョンボは経験者の失笑を買うだけなので、せめて担当が気付いてやれよ、と思う。
 とはいえ、単純にこの作品が好きか嫌いかと言われれば、私は大好きだと胸を張って答える。確かに、勢いだけの内容であるし、次の作品が出せなかったことにも納得させられるくらい、全体的な漫画としてのクォリティはイマイチだが、問答無用で一気に最後まで読ませるだけの魅力はあり、そしてまた最後の決着も非常に印象的であった。なので、マニア向けではあるが、テニス漫画愛好家の人々には、死ぬ前に一度くらいは読んで欲しい作品である。