瀬尾公治「梓颯(あずさ)」(『ラブレター〜瀬尾公治短編集〜』収録)

ラブレター~瀬尾公治短編集~ (講談社コミックス)

ラブレター~瀬尾公治短編集~ (講談社コミックス)

初出:『マガジンワンダー』(2005年)
単行本:講談社マガジンKC『ラブレター〜瀬尾公治短編集〜』(2007年)


 『W's』の作者でもある瀬尾公治が週マガ増刊の『マガジンワンダー』にて描いた短編作品。ちなみに、作品構想自体は新人時代に作られていたらしい。単行本としては『ラブレター』に収録(同時収録は表題作の他に「HALF & HALF」)。現在の作者は『週刊少年マガジン』にて『君のいる町』を連載中。
 主人公は、高校一年生の黒田謙志。女子テニス部のエースでもある三年生の伊藤葉月に憧れる彼が、彼女への想いを綴ったラブレターを、間違えて同じ苗字で同じテニス部の一年生・伊藤梓颯(あずさ)の下駄箱に入れてしまうところから物語は始まる。梓颯は以前から謙志のことが好きだったため、彼の手紙を喜んで受け入れ、謙志も彼女に流されるままに交際を始めてしまうものの、葉月先輩への想いを捨てられない謙志は「いつ別れを切り出せば良いのか……」と悩み続けることになる、という物語。
 正直、いくら苗字が同じでも、違う学年の下駄箱に入れるのはさすがに無理があると思うのだが、そのような御都合主義は瀬尾作品では日常茶飯事である。また、いくら本命ではないからと言って、同学年の美少女に好かれてることが分かれば、その時点で心変わりしないのもリアリティに欠けると(少なくとも私は)思うのだが、それも含めて瀬尾ワールドということで、好きな人だけ楽しめば良いのだと思う。ちなみに、私は大好きだ。
 テニス描写に関しては、葉月と梓颯のテニス姿が1コマずつ描かれるのみで、実質的には皆無と言って良い。正直、謙志もテニス部員にしておいた方が物語も盛り上がったと思うし、「テニス部のロッカーにラブレターを入れた」という展開の方が、誤投函設定にも説得力があったと思うのだが(もっとも、女子部の部室に入れるのか、という問題も生じるが)、頁数の都合を考えると、そこまで話に絡めるのは無理だったのかもしれない。
 まぁ、ラストに関しては大体予想通りなのだが、物語後半の梓颯の台詞回しは実に上手いし、物語としては綺麗にまとまっていると思う。というか、この人の長期連載の恋愛漫画はグダグダ化の傾向が強いので(まぁ、それはそれで面白いんだけど)、こういった短編作品の方が向いてるのかもしれない。