テニス選手とテニス漫画

 昨夜の某番組で、「現役野球選手が選ぶ野球漫画ベスト5」なる企画をやってたらしいですね(私は見てなくて、twitterを通じて皆さんが語っているのを見てたのですが)。意外にも、第三野球部が一位だったそうで、確かに私くらいの世代にとっては、一番リアルタイムで熱くなれた作品だったのかもしれません。なんつーか、「実際に野球をやってる人達にこそウケる作品」というイメージがありますよね。
 で、こういう話を聞くと、私としては当然、「じゃあ、『現役テニス選手が選ぶテニス漫画ベスト5』なら、どんな作品が挙がるんだろう?」という妄想が広がる訳ですが……、正直、この企画は成り立たないんじゃないかな、と思うのです。というのも、「テニス選手にとってのテニス漫画」って、「野球選手にとっての野球漫画」ほどの影響力はないんじゃないかと。
 もっとぶちゃけて言ってしまえば、「テニス漫画に憧れて、テニス選手になった人」って、かなり少ないと思うんです。これは、テニス漫画の数が少ないから、というだけではなく、現実にテニスの世界で成功する人達の大半は、既に5〜6歳くらいの頃からテニスを始めてるんですよ。つまり、プロとして成功するレベルの人達は、本人が主体的に漫画を読むようになる前に、親の意思で英才教育を受けてきた人々ばかりなんですよね。
 無論、小中学生の頃に『エースをねらえ!』『フィフティーン・ラブ』を読んでテニス選手を目指した人達も沢山いたでしょう。実際、松岡修造が『エースをねらえ!』のファンだというのは有名な話です。でも、彼のように慶応幼稚舎で育ったセレブならともかく、普通の小中学生がテニス漫画に憧れを抱いたところで、公立の小中学校の大半には硬式テニス部が存在しない訳ですよ。ドカベンに憧れて野球部に入ったり、翼くんに憧れてサッカー部に入ったりすることは出来ても、松本広海になりたい子供達を受け入れてくれる部活が、普通の小中学校にはない訳です(だからこそ、彼自身もすぐにアメリカに行ってしまう訳で)。
 そして、高校に入ってから硬式テニスを始めたところで、やっぱり「物心ついた頃からテニスに興じていたエリート」には勝てないのですよ。マッケンローは中学まで野球部だったとか、たまにそういう例外もいますが、少なくとも日本テニス界を見る限り、岡ひろみや井出延久や丸尾栄一郎は、竜崎麗香や滝田留宇衣や越前リョーマには勝てないのが現実なのです。だからこそ、逆に前者のようなタイプを主人公にした漫画の方が、「現実にテニス部で青春を謳歌している人々」には(自分たちの「夢」を叶えてくれるという意味で)受け入れられやすいんですけどね。
 その意味では、むしろ「テニス選手の親に聞いたテニス漫画ベスト5」の方が面白いかもしれません。沢松一族のような超エリート集団はともかく、現在のプロ選手達を育てた親御さん達の中には、自分達が果たせなかった夢だからこそ、子供に託したい、という人々もいると思うのです。特に、今の森田・錦織世代の親御さん達の何割が、子供の頃に『エースをねらえ!』を読んでいたのか、ちょっと個人的には興味がありますね。