村上よしゆき『新約「巨人の星」花形』

連載:週刊少年マガジン(2006〜2011年)
単行本:講談社コミックKC(2006〜2011年) 全22巻


 日本野球漫画史の金字塔『巨人の星』のリメイク版。舞台を現代(21世紀)に移し、主人公を原作におけるライバル・花形満へと変更するなど、大体なアレンジが話題を呼んだ。作者の村上よしゆきは本作品が初連載作品。
 本作では、リトルリーグ時代に好投手として活躍しながらも、肩を壊して挫折した花形満が、入学した先の中学で打者に転向した後、諸々の経緯の末に草野球チーム・ブラックシャドーズを結成し、やがて星飛雄馬と出会い、紅葉高校に進学して、甲子園で彼と対決するまでの物語が描かれる。
 主軸の物語展開は原作に近いが、主要人物の学年や性格などが微妙にアレンジされており、特に原作では端役にすぎなかった赤川、滝、オーロラ三人娘(のルミじゃない方)などに独自の設定が施されている。一方、本作品独自の創作キャラ達の中では、中学編の黒沢や高校編の新海などの「兄貴分的な存在」が、孤高な花形を精神的に支えているという関係が面白い。
 また、イギリス留学設定が存在しないため、原作で有名な「バットでテニス」の場面は登場しないかと思われたが、高校進学後の第16巻にて唐突に描かれることになる。別に物語的には無くても良い場面ではあるのだが、やはり彼の「華麗なる天才」演出の一環として必須と考えたのだろう。
 正直、原作が本当の意味で面白くなるのはプロ編以降であり、高校編まではその前座程度の話でしかなかったのだが、その部分だけで原作本編以上の長期連載に至るほどに物語を膨らませた力量は高く評価すべきだと思う。
 一方、終盤の展開があまりに拙速だった点は残念だが、私の中では本作品は、上記のような(歴史の表舞台に登場しなかった)「天才・花形を生み出した男達(&彼をとりまくお姉様達)」の物語であり、その意味では実質的に県大会準決勝の時点で完結しているので、それ以降についてはこの程度でいいのかな(むしろ甲子園編自体が蛇足だったのかもしれない)とも思う。