いくえみ綾『I LOVE HER』

I LOVE HER 1 (集英社文庫―コミック版)

I LOVE HER 1 (集英社文庫―コミック版)

連載:『別冊マーガレット』(1992〜1994年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1993〜1994年) 全5巻
    集英社文庫コミック版(2004年) 全3巻


 『バラ色の明日』や『潔く柔く』などで有名ないくえみ綾(りょう)が、『別冊マーガレット』にて連載した作品。本編の単行本は全5巻だが、完結後に同誌で描かれた続編読切「P.S. I LOVE HER」も存在する(『子供の庭』2巻に収録)。近年の作者は愛猫との生活を描いたエッセイ四コマ『そろえてちょうだい?』を発表するなど、その作風を更に広げつつある。
 主人公は、北海道に住む高校一年生の三賀花(さんが・はな)。親の離婚に伴う転校により、付き合っていたテニス部の彼氏・浅尾貴大と別れて意気消沈していた彼女が、引っ越し先のアパートの隣に住む青年・新堂央人(ひろと)との出会う場面から物語は始まる。実は新堂は花の転校先の担任の教師であり、気さくで面倒見のいい彼に、徐々に惹かれていくことになる。
 「教師との恋愛」は、少女漫画の永遠のテーマの一つであるが、本作品においては、そうした関係を発生させる要因としての「ズルい男性教師」と「メンドくさい女子高生」の描写が実にリアルで、身に詰まされる。それ故に、彼等の悩み苦しむ姿を見ながら、「自業自得だよな」と思いつつも、各人の心情に共感もさせられる、そんな絶妙のバランスに仕上がっている。
 テニスに関しては、浅尾がラケットを持っている場面が何度か登場する程度で、まともに練習や試合の様子が描かれることはない。また、続編読切では、テニス部顧問となった新堂とその教え子達が描かれているが、こちらもテニス描写自体は断片的な演出に留まっているのが個人的には残念である。
 あと、物語の中盤で登場する猫「かつどん」が超可愛い。外見もしぐさの描写も超可愛い。この頃から既に愛猫家であったらしいが、後に猫漫画家としての一面を開花させるに至る片鱗を見せている。まぁ、彼(?)のラストには色々と思うところもあるが、「選ばれなかった方」の心情を考えれば、それくらいは許してやってもいいんじゃないかな、とも思う。