やまもり三香『シュガーズ』

シュガーズ 4 (マーガレットコミックス)

シュガーズ 4 (マーガレットコミックス)

連載:『マーガレット』(2008-2011年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(2009-2011年)


 現在は『マーガレット』にて『ひるなかの流星』を連載中のやまもり三香が、同作品の前に連載していた、初単行本作品。単行本は全6巻で、いくつかの巻末には本作品以前に描かれた短編作品なども掲載されているが、全て本作品と同じ世界を共有しており、何人かの本作品の登場人物も登場する。
 同じ街を舞台としながらも、毎回主人公が変わるオムニバス形式の恋愛群像劇。基本的には、最初は脇役として登場した人物が、その次の話で主人公になる、というパターンが多く、さながら初期の水滸伝のように、めまぐるしく物語が変転する。各話の主人公は高校生が中心だが、一つの恋物語を男女双方の視点で別々に描くなど、その物語様式は『初恋限定。』に近い。
 そんな群像劇の一つとして、4巻では女子テニス部員・周防要の恋物語が描かれている。色黒&長身な彼女が「意外な人物」に恋心を抱く話なのだが、凛とした彼女のクール状態とデレ状態のギャップがたまらない。色黒キャラという点では初恋限定。のどばちゃんにも通じるのだが(ついでに言うと、相手役の特徴も一部分だけカブる)、この辺り、やはり女性作家だからこそ「現実の女子テニス部」の持つ「泥臭さ」を素直に描けるのかもしれない。
 一つ一つの物語自体はそれほど奇を衒っている訳ではないが、それぞれの話における演出や台詞回しが実に巧みで、素直に心が物語世界へと引き込まれる。まさに「王道」であるが故の強さ、とでも言うべきか。その上で、それらのエピソードを繋ぎ合わせる構成力も秀逸であり、全体像を把握するために何度でも読み返したくなる、そんなタイプの味わい深い作品である。
 ちなみに、作中の男性陣に「ヘタレ系」が多いということを作者も自認しているが、私のような少女漫画好きのおっさんは基本的にヘタレ系ばかりなので(偏見)、かえってどの男性キャラにも感情移入しやすいのかもしれない。と言いつつ、実は私が一番好きなのは白川弟だったりするんだけどね。