成田美名子『CIPHER』

Cipher (第1巻) (白泉社文庫)

Cipher (第1巻) (白泉社文庫)

連載:『LaLa』(1985〜1990年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(1985〜1990年) 全12巻
    白泉社文庫(1997年) 全7巻


 『エリアン通り』や『NATURAL』などで有名な成田美名子の代表作の一つ。続編(スピンオフ)として、本編の登場人物の中の一人を主人公とした『ALEXANDRITE』がある。現在の作者は『NATURAL』のスピンオフ作品である『花よりも花の如く』を『MELODY』にて連載中。
 主人公は、ニューヨークに住む高校生アニス・マーフィ。彼女が、同じ学校に通う同学年の俳優シヴァに「友達になりたい」と告げる場面から物語は始まる。だが、実はシヴァには双子の弟・サイファがいて、二人は一日交代で入れ替わって生活している、という複雑な事情を知ることになる。
 当初は全く二人の見分けもつかなかったアニスだが、徐々に二人の違いを理解し、そしてより深い関係へと発展していく。一方で、アニスと触れ合うことによって、それまで「二人だけの世界」の中で完結していた双子の関係にも、様々な変化が生じるようになる。基本的にはこの三人を軸としつつ、彼等のそれぞれの友人達との間における様々な人間関係を絡ませた、精神的な成長&変容をテーマとした青春群像ストーリーが展開されることになる。
 そして、物語後半で登場するLA在住の日系人・竹下春臣(通称:ハル)の趣味がテニスということもあり、本作品でもテニスの場面が登場する(その前にスカッシュが登場する話もある)。当初はただの遊興の一つとして描かれるが、終盤ではテニスにおける精神戦の様相を人生訓に喩えるくだりがあり、その意味では、作中のテーマを巡る重要な鍵の一つとも言える。
 作中の人間関係は複雑で、特に中盤以降は「登場人物の死」を含めた重い展開が待ち受けているが、そんな鬱展開から立ち直っていく上での「人との出会いと絆」の重要性が切々と感じられる、そんな作品である。いかにも「80年代アメリカ的青春」を連想させそうな作風ではあるが、実は恋愛よりも友情の方に重点を置いた展開が多く、個人的にはその点も好感が持てる。