さかぐち直美「恋のスマッシュ!!」

連載:『中学一年コース』(1976〜1977年)
単行本:未発売


 「恋のラブオール」の作者でもあるさかぐち直美が、同作品と同じ『中学一年コース』に連載した四本のテニス漫画の中で最初に発表された作品。本来、この枠は一年間にわたって連載されるのが通例だが、この年度だけは「花のラケット ラブラブちゃん」が4〜8月で終了し、1976年度の9月号から本作品が始まるという変則的な形式で、七ヶ月間にわたって連載された。
 主人公は、中学一年生のテニス部員・新谷由里。彼女が飼っている豚のブブが、サッカー部に差し入れられた弁当を食べてしまったことから、サッカー部員の三年生・榎木徹と口論になり、彼とテニスで勝負することになる。榎木は幼少期にテニスを学んでいたことがあり、相当な実力者なのだが、彼は試合を通じて、由里の隠れた才能を見出していくことになる。
 さかぐち直美がおそらく最初に描いたテニス漫画だが、「ラブラブちゃん」の打ち切りに伴って急遽スタートしたという経緯もあり、正直言って最初の頃のテニス描写はかなり荒い。コートの形は明らかに軟式なのに、勝負形式がシングルスであったり(当時の軟式にシングルスは存在しない)、榎木がテニスをする時にパンタロンを履いているなど、不自然な描写も多い。
 ただ、その点も途中から徐々に改善され、終盤では明確に硬式テニスのルールに基づいた、躍動感のある丁寧なフォームが描かれている。ただ、連載期間が短かったこともあり、残念ながら正式な試合は最終回で若干描かれる程度に留まっており、テニス漫画としては十分な内容とは言えないが、その後の彼女の作品群を作る上で重要な基礎を提供したことは疑いない。
 ちなみに、本作品の舞台は明言されていないが(榎木は東京から転校してくるので、東京ではない)、「田丸」という表記が何度か登場するので、おそらく三重県玉城町田丸の近辺ではないかと思われる。なぜこの地を選んだのかは不明だが、作者にとって何らかの縁のある土地なのかもしれない。