平松伸二『キララ』

キララ (ジャンプコミックスデラックス)

キララ (ジャンプコミックスデラックス)

連載:週刊少年ジャンプ(1986年)
単行本:集英社ジャンプコミックスデラックス(1986年) 全1巻


 『ドーベルマン刑事』や『ブラックエンジェルズ』などで70年代の『週刊少年ジャンプ』を支えた平松伸二が、同誌で最後に連載した作品。単行本は全1巻で、大判の『JCデラックス』として発売された。現在の作者は『週刊漫画ゴラク』にて『ザ・松田〜ブラックエンジェルズ〜』を連載中。
 主人公は、高校一年生の天才投手・生沢輝良々(いくざわ・キララ)。本気になればいつでも完全試合を達成出来る実力がありながら、勝負への執着心の無さ故に記録達成を逃してきた彼が、恋人である年上の天才テニス少女・斉藤奈美と共に、銀行強盗事件に巻き込まれて重症を負ったことを契機に、本気で甲子園を目指して野球に取り組むことを決意する、という物語。
 ハードボイルドなバイオレンス漫画で一時代を築いた作者だけに、序盤から凶器と狂気の飛び交う急展開の連続で読者を物語世界へと引き込んでいく。キララのチームメイトも、対戦相手も、もはや「不良」という言葉では生温いレベルの任侠系高校生達ばかりであり、野球としてのルールもモラルも無視した命がけの死闘が繰り広げられていくことになる。
 残念ながら、奈美がまともにテニスをする場面は回想シーンなどで若干描かれる程度なのだが、物語の序盤では、キララの野球のボールを投げ、車椅子の奈美がそれをテニスのラケットで打ち返そうとするという、謎の勝負が展開される場面がある。テニスボールを野球のバットで打ち返すのは巨人の星以来の伝統的なお約束展開だが、その逆パターンはかなり珍しいと思う。
 アストロ球団が築き上げた「ジャンプ流スポーツ漫画」の完成型と呼ぶに相応しい傑作であるが、既にスポ根漫画もハードボイルド漫画も斜陽の時代に入りつつあった80年代中盤の読者の支持を得ることは叶わず、わずか15回で打ち切りとなってしまう。だが、そのバトルスポーツ漫画の魂はやがて時を超え、90年代末期のテニス漫画などへと受け継がれていくことになる。