田村由美『ちょっと英雄(ヒーロー)してみたい』

ちょっと英雄してみたい 1 (フラワーコミックス)

ちょっと英雄してみたい 1 (フラワーコミックス)

連載:『別冊少女コミック』(1987年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1987年) 全2巻


 『BASARA』『巴がゆく!』などで有名な小学館の人気作家・田村由美が、『別冊少女コミック』にて描いた初期の連載作品。現在は、同社の『月刊flowers』にて『7 seeds』を連載中。
  テニス・スクールの経営者の孫娘で、中学時代はジュニア選手として全国制覇まで果たした松本勇(いさみ)が主人公。高校進学後は陸上部・水泳部・バスケ部を掛け持ちしつつもテニスから離れていた彼女が、祖父のテニス・スクールの危機を救うために再びラケットを手に取る、というのが第1巻の物語。第2巻に入ると、(単行本タイトルは『ちょっと英雄してみたい』のままだが)「ちょっと英雄騎士団」と名を変えて舞台は沖縄へと移り、それまでとは一転した南海での冒険物語が描かれている(故に、本レビューでの実質的な評価対象は第1巻のみとなる)。
 全編通じてテニス描写自体はそれほど濃密ではなく、(練習風景はそれなりに丁寧に描かれてはいるものの)まともに描かれる試合は最後の一戦のみである。物語の主軸は、スクールの取り潰しを狙う火撫(ひなず)産業との戦いと、同社の御曹子である雄生(ゆうせい)と勇の微妙な恋模様を描くことに置かれている。
 本作品の最大の魅力は、なんといっても華のあるキャラクター陣である。直情・純情型の主人公である勇の行動は常に爽快な雰囲気を作品全体にもたらし、対照的に彼女を陰で支える親友の光林弘恵(みつばやし・ひろえ)のクールな眼差しが物語を引き締める。そして何より、シニカルかつミステリアスでありながら、ほのかに垣間見える激しさと優しさの持ち主でもある雄生は、まさに少女漫画における相手役として理想的。他にも、勇と雄生の祖父達や、ライバルの柿崎夕子など、少ない出番の中でも人間味を感じさせる魅力的なサブキャラも多い。
 人気作家・田村由美の作品の割にはあまり知名度は高いとは言えないが、漫画としての完成度は非常に高いと私は思う。さわやかな青春テニス漫画として、幅広い層にお勧め出来る傑作と言って良かろう。