葵蜜柑『ライジングハーツ』

ライジングハーツ 1 (ニチブンコミックス SH comics)

ライジングハーツ 1 (ニチブンコミックス SH comics)

連載:『さくらハーツ』(2010-2012年)
単行本:日本文芸社さくらハーツコミックス(2011-2012年)全2巻


 成人向け漫画や小説の挿絵などで活躍していた葵蜜柑が、日本文芸社発行の(『週刊漫画ゴラク』の増刊に相当する)萌え漫画雑誌『さくらハーツ』(隔月刊)の創刊当初から約一年半にわたって連載された作品。なお、作者はサークル「BBG」として同人界でも活躍中。
 主人公は、高校一年生の永森このか。両親の海外赴任に伴い、従兄弟の中村樹(いつき)の家に居候しつつ、私立桜ヶ丘高校に転校することになった彼女が、彼の紹介でテニス部を見学する場面から物語は始まる。主将の安藤響香の誘いで、試しに彼女とのラリーに挑戦してみたところ、初心者ながらも「重い球」を打てる素質の持ち主であることが発覚し、そしてまたこのか自身もテニスの楽しさに目覚めたことで、そのまま正式に入部を決意する。
 桜ヶ丘高校のテニス部は男女共には名門で、主人公の同僚や先輩には個性豊かな美少女達が揃っているのだが、物語全体の空気は、良くも悪くも伝統的な王道スポーツ漫画である。そんな中、このかはフォアもバックも両手打ちで、やがて物語の途中でライジングショットを得意技として習得することになるのだが、女子でも片手打ちのベースライナーが主流となっている御時世において、この設定はそれだけで一つの個性としては十分である。
 細かいテニス描写に関しても、やや画面構成が荒れることはあるが、それでも初心者が一からテニスを学んでいく上での「タイミングの取り方」や「力の抜き方」など、作者自身の(軟式らしいが)テニス経験を生かした演出が随所に見られるのは高ポイント。その上で、「テニスの楽しさ」自体を全面に押し出そうとする姿勢にも共感が持てる。
 だが、残念ながら『さくらハーツ』という、明確に「萌え漫画」路線を志向する雑誌に載せるには作風が地味すぎたようで、単行本2巻であっさり打ち切られてしまった。正直、この人の画風自体は明確に萌え漫画向きというか、あまり動的な場面の多いスポーツ漫画には向かないタイプの絵柄だと思うので、もっと『そふてにっ』的な部内のドタバタ・ラブコメ・お色気などを取り入れた方が良かったのかもしれない(もともとエロ漫画の人だし)。というか、出来ることなら作者自身の手で彼女達のエロ同人を描いてほしいと思えるくらいに魅力的&個性的な美少女達がそろっていたので、色々な意味で勿体ない作品だったと思う。