高階良子『ピアノソナタ殺人事件』

初出:『なかよしデラックス』(1979年)
単行本:講談社なかよしKC(1979年) 全1巻
    秋田書店ボニータコミックスα(2005年) 全1巻


 1960年代から今日に至るまで活躍し続けている少女漫画界の大御所・高階良子の描いたミステリー漫画の一つ。『なかよしデラックス』にて前後編で掲載され、その直後に表題作として単行本化された(同時収録は「ホープダイヤの赤い呪い」と「ばらのためいき」)。現在も『ミステリーボニータ』にて(代表作であった「マジシャン」の続編の)「新マジシャン」を連載中。
 主人公は、私立武蔵学園に通う女子生徒・柳川育(やながわ・いく)。彼女の従姉妹の姫宮聖子は理事長の娘である上に、そのピアノの才能を認められて学内に専用のピアノ室を持つことまで許されるほどの学園の女王的存在であり、育は諸々の事情から、聖子に付き従う従者のような立場にいた。育は聖子とは対照的に、全てにおいて何の取り柄もない少女としてみなされてきたが、そんな彼女が奇妙な様子で流暢にピアノを奏でている姿を発見した生徒会長の村上は彼女に興味を持ち、またテニス部部長の有沢美紀は彼女にテニスの才能を見い出してテニス部へとスカウトする。そのような形で、少しずつ育の身辺に変化が生じていた最中、学園を揺るがす大事件が勃発することになる。
 全体通じて100頁弱の作品であり、本編で起きた事件およびその後の怪現象を解き明かす鍵は二つ用意されている。正直、二つ目の鍵はあまり意外性もない内容だったのだが、一つ目については、なかなか独自の発想で面白い。作風としては、流麗さと不気味さを併せ持つ、まさに少女向けミステリーとしては理想的な絵柄であり、作者がこのジャンルで第一人者として活躍してきたことも頷ける。
 テニス漫画としては、テニス描写自体は極僅かしか登場しないのだが、実は個人的にはテニス部の有沢部長がお気に入りだったりする。こういう凛とした人が、87頁のような表情を見せる場面が、私としては一番萌えなんだよね。
 ネットでの評判を読む限り、どうやら彼女の多くの短編作品の中でも特に人気のある話らしいので、普通に楽しめる一つのミステリー漫画として、万人にお勧め出来る内容と言って良かろう。