矢部かおる「ラケットにご注意」

連載:『別冊少女コミック』(1974年)
単行本:未発売


 主に1970年代前半の『週刊少女コミック』などで活躍した矢部かおるが、『別冊少女コミック』1974年4月号に描いた短編作品。作者は読切りを中心として同誌で様々な作品を描いたが、単行本化された作品は存在しないらしい。ちなみに、当時の少コミ本誌では『コートの嵐』が連載されていた時代である。
 主人公は、男子校から共学化へと転換ばかりの私立城東高校の一年生・坂口まゆみ。入学初日の通学列車に飛び乗った彼女が、同じ高校のテニス部のキャプテン近藤実の胸元に飛び込むところから物語は始まる。その瞬間は互いに好印象だった二人だが、まゆみは不運な誤解から近藤のことを痴漢だと勘違いしてしまう。その後、彼女はテニス部への入部を希望するのだが、そこで近藤と再開して再び悶着が起きることになる。
 物語はまゆみと近藤の双方向の視点から展開されるため、「誤解」の真相は最初から読者に明かされている。その上で、いかにしてその関係を修復するか、という過程を楽しませることに重点を置いた作風と言える。この手法は、読みやすいと言えば読みやすいのだが、展開の意外性に欠けるという難点もあり、実際、最後のオチもやや弱い。ただ、さわやか&まったりした展開を楽しむ作品として、こういう話も個人的には嫌いではない。
 テニス描写に関しては、後半において大和学園高校との対抗戦の話が描かれるものの、残念ながら僅か数頁で終わってしまっている。ただ、コマ数自体は少ないものの、「テニス部における恋愛漫画」としてはきっちり描けていると思う。
 絵については、割と上手い方だと思うのだが、この時代の少女漫画にしては(特に身体のラインを描く際において)やや線が太いので、その点が当時の読者には合わなかったのかもしれない。
 物語の端々で「ヒップにタッチ」や「天地真理ちゃんみたい」など、いかにも時代を反映した表現がちらほらと出てくる辺りが、レトロ漫画を愛する身としては楽しい。特にオススメするほどではないが、程良くニヤニヤ感を味わうには適した作品だと思う。