林明日子『SEASON』

連載:『週刊少女コミック』(1989〜1990年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1990年) 全3巻


 1980年代末期〜1990年代初頭にかけて少コミ&ちゃおで活躍した林明日子のテニス漫画。作者には他に『パパは同級生』『NGコネクション』などの代表作がある。近年は趣味のF1観戦が高じて、F1雑誌でレポート漫画などを描いているらしい。
 テニスの名門一族に生まれて、テニスの名門校・紅葉学園中等部に通いつつ、ジュニア選手として海外遠征にも参加している主人公・秋吉由菜の前に、謎の転校生・降矢湖次郎(ふりや・こじろう)が現れるところから物語は始まる。それまでメンタル面の問題から実力を発揮しきれずにいた由菜が、降矢との出会いを契機に徐々にそれまでの自分から脱皮していく、というのが主なストーリーである。
 全編通して由菜のモノローグが多く、特に序盤はやや陰鬱な展開が多いのは否めないが、第1巻の最後でライバルとなる朝香麻緒(あさか・まお)が登場する辺りから、徐々にテニス漫画としてのドラマが盛り上がっていく。他にも、由菜の親友の原早季子(はら・さきこ)や、終盤で登場するアン・ハミルトン、そして由菜の従兄にあたる迫間朗雄(さこま・あきお)といった華のあるジュニア選手達が物語を彩る。
 絵柄としては非常に淡い画風で、いかにも1980年代風の物語展開に合致した繊細な物語世界が描かれているが、テニスの試合においては躍動感のある正統派スポーツ漫画的描写で、特に第2巻の陵西学園戦は実に見事に描けていると思う。ただ、逆に言うとそれ以外の試合の描写がやや淡白な印象も受けるし、終盤はやや駆け足気味に展開しているようにも見える。
 とにかく由菜がひたすら内向的で、終始彼女の視点で物語が進むため、どうしても全体的にやや暗めの作風になってしまってはいるが、所々で「息抜き」的な描写も織り交ぜられており、決して読んでて辛くなるような作品でもない。繊細で淡い雰囲気のスポーツ漫画が好きな人なら、きっと楽しめるであろう良作である。