庄司陽子『ラストショット』

ラストショット (講談社漫画文庫)

ラストショット (講談社漫画文庫)

連載:『週刊少女フレンド』(1973〜1974年)
単行本:講談社コミックスフレンド(1979〜1980年) 全2巻
    講談社漫画文庫(1999年) 全1巻


 『生徒諸君!』などで有名な少女漫画界の大御所・庄司陽子の初期の作品。作者は最近は青年誌『週刊モーニング』でも性同一障害を取り扱った『G. I. D.』を連載するなど、更にその作風の幅を広げつつある。
 養護施設で育てられた主人公・澪が、「庭球屋敷」と呼ばれる謎の洋館の若き主人にしてプロテニス選手である高畑薫に引き取られ、テニス選手としての英才教育を受けていく、という物語。なぜか澪のことを「メグ」と呼ぶ薫と、そのことに違和感を抱きながらも薫の期待に答えようとする澪、そして薫のダブルス・パートナー候補として集められた宮園巧(みやぞの・たくみ)等を初めとする周囲の人々が、それぞれの過去と苦悩を抱えながら、「自分の生きる道」を模索していく物語。
 私自身がこの作品を見てまず最初に驚かされたのは、その洗練された画風である。時はまさに24年組の登場によって少女漫画界が革命を迎えていた時代、彼女等とほぼ同世代の庄司陽子もまた、同時代の他のスポーツ漫画とは一線を画す華麗で繊細な画風をこの作品を通じて確立したと言える。全編通じて醸し出されるひたすらに優美かつ壮麗な雰囲気は、従来の一般的なスポーツ漫画の空気とは全く相反する独特の存在感を示している。
 ただし、作者自身が「テニスが設定ですが恋愛ものです」と述べている通り、全編通じてテニス自体はサラッと描かれる場面が多く、細かい技術論も派手な必殺技も登場しない。しかし、本作品にとってテニスはその物語の根底を規定するエッセンスであり、各人がテニスへの情熱と恋愛感情の両面で苦悩する姿こそが最大の魅力なのである。その意味で、本作品は十分に「テニス漫画」と呼ぶに値する作品であると私は思う。
 かなり古い漫画ではあるが、現在も文庫化しているので普通に入手出来る。特に、スポーツを通じての繊細かつ華麗な青春群像が好きな人々に、強くお勧めしたい名作である。