灘しげみ『逆転ラブ・スマッシュ』

連載：不明
単行本：若木書房TCデラックス（1980年）　全1巻

　『コートの嵐』などで有名な灘しげみが描いたテニス漫画の一つ。単行本が『コートの嵐』と同じ若木書房のTCデラックスから発売されているので、おそらく少女コミック系の雑誌に連載された作品だと思われるのだが、灘しげみは同時代の他誌にも何本か執筆したことがあるので（そして若木書房からは講談社や集英社の漫画も単行本化されているので）、残念ながら確証は持てない。
　中学生の主人公・東（あずま）めぐみ（通称／メグ）が、電車で偶然出会った美男子テニスプレイヤー・日向卓（本編中では「たく」だが、表紙カバー裏には「すぐる」と記載されており、どちらが正しいのかは不明）との出会いを契機に、「ロイヤル・テニス・クラブ」への入会を決意するところから物語は始まる。
　ひたすらスポ根一直線であった『コートの嵐』に比べると、本作品はそのタイトルが示すように、どちらかというとテニスよりも恋愛の方に重点が置かれており、メグ、卓、卓の悪友の但馬大介、大介の混合ダブルスのパートナー・山城いづみの四角関係が物語の軸となる（終盤では、この関係が一段落した後で更にもう一波乱が描かれる）。
　ただ、そうは言ってもさすがにスポ根漫画で名を馳せた灘しげみだけのことはあり、決してテニスを「恋愛漫画における背景」のみに止めるようなことはせず、恋愛と並行させる形でテニス漫画として読んでも面白い要素が色々と組み込まれている。特に混合ダブルスの組み方を巡る一連のエピソードに関しては、テニス初心者でも素直に理解出来るオーソドックスな展開で分かりやすい。
　今となってはほぼ間違い無くプレミア価格となっている単行本ではあるが、ネットオークションなどでは頻繁に出品されているので（しかも一巻本なので）、本気になれば手に入れることはそれほど苦にはならない。ただ、個人的な好みとして言わせてもらうと、本作品も決して悪くはないのだが、灘しげみにしては「アツさ」が足りないようにも思えるので、やはり最初に読むならまず『コートの嵐』の方をお勧めしたい。ただ、逆に言うと、彼女の描く「アツ苦しい世界」が苦手な人は、本作品の方が読みやすいのかもしれない。