なかざき冬「ダブルフォールト!」(『Let's Kick!』収録)

Let’s kick! (月刊マガジンコミックス)

Let’s kick! (月刊マガジンコミックス)

初出:『月刊少年マガジン増刊グレート』(1994年)
単行本:講談社KCマガジン『Let's Kick!』(1994年)


 『Who is 風生』や『えとせとら』などで有名な、なかざき冬(とう)の短編集『Let's Kick!』の巻末に収録されているテニス漫画。ちなみに、同単行本中には他に、「スポーツ漫画シリーズ」として、セパタクローを描いた表題作と、アイスホッケーを描いた「フェイスオフ」の二本が掲載され、巻末には八頁の超短編「どーなることやら」も収録されている。
 主人公は、類い稀なる洞察力と画力を持つ高校一年生の小鳥居(♂)と、同じ高校に通う三年生でテニス部キャプテンの鬼藤(♀)。鬼藤に密かに想いを寄せる小鳥居は、毎日テニス部における彼女の練習風景をスケッチしつつ、彼女のフォームを模倣する日々を続けていたのだが、ある日、意を決して彼女の混合ダブルスの代役として立候補することになる、という物語。
 実際のところ、冷静に考えればかなり無理のある場面も多い作品なのだが、一応、物語の要所要所でそれなりにもっともらしい理由をつけながら展開していくので、進行が単調になることもなく、全体的に小気味良いテンポで密度の濃い物語が描かれている。
 テニス描写に関しては、主人公である小鳥居が「洞察力」を武器にするタイプということもあって、短編の割にはそれなりに細かく試合展開が描かれており、細かい駆け引きなどの描写も面白い。ただ、この人は非常にクセのある(デフォルメの激しい)独特の絵柄なので、正直、デッサンがとれているのかいないのか私にはよく分からないし、この画風に慣れるまでは少々読みにくいかもしれない(逆に、好きな人は一発でハマれる画風だと思う)。
 まぁ、スポーツ漫画としてはかなり異色というか邪道な内容ではあるが、私としてはこういったイロモノっぽい作品は大好きである。おそらくテニス漫画史において後にも先にも現れることのない「only one」なコンセプトの本作品は、(この単行本に掲載された他の作品と同様)もっと少し多くの人々の目に触れて欲しい良作であると思う。