本山一城「きまってないのにキメマルくん」(『ビッグショット』第4巻収録)

連載:『週刊少年ジャンプ』(1979年)
単行本:講談社KCマガジン『ビッグショット』第4巻(1981年)


 『ビッグショット』の第四巻巻末に収録されている作品。当初は三話構成だったらしいのだが、単行本では「パート1」「パート2」という形で再編されている。ちなみに、実は掲載誌は『週刊少年ジャンプ』なのだが、なぜか講談社の単行本の中に収録されることになった(単行本内には、初出表記はない)。
 主人公は、女好きでチャランポランな性格でありながらも、善玉中学の剣道部において随一の実力を持つ少年・安外極丸(あんがい・きめまる)。パート1では、彼が悪玉中学の陰謀によって負傷させられたテニス部員の代役として、桃山里咲(りさ)と共に中学テニスの全国大会に出場し、悪玉中への怒りを胸に、気迫で立ち向かっていく姿が描かれる(ちなみに、パート2ではそれとは全く関係ない「夏の浜辺での物語」である)。
 まず第一印象として目につくのが、本作品の直前に月ジャンで掲載された『硬派銀次郎』のテニス編との設定の類似性である。実際のところ主人公の性格や物語全体の雰囲気が全く異なるので、あまり気にはならないのだが、もしかしたら同じ編集者が担当していたのかもしれない。
 一方、「剣道からの転向」という展開は当時のテニス漫画の中では珍しく、その後も『見上げてごらん』までは殆ど見られなかった設定であるので、その点に関しての独創性は高く評価すべきであろう。
 ただ、テニス漫画としてはまだまだ粗く、『ビッグショット』における迫力ある描写とは(最後で若干その片鱗が垣間見れるものの)程遠い。また、明らかに『エースをねらえ!』のパロディと思しき敵キャラを登場させたり、当時のヒット曲をやたらと作中に引用したりするなど、色々な意味で「悪ノリ」の多い作風なので、ひたすらシリアスな『ビッグショット』の巻末に掲載されていることに非常に違和感を感じるのであるのもまた事実である。
 正直、あまり一般向けにお勧め出来る作品ではないが、ジャンプの最初期のテニス漫画の一つとして(そして作者が後に『ビッグショット』を生み出す上での一つのステップとして)歴史的価値は十分にあると言えよう。