樹なつみ「左の炯」(『八雲立つ』第7巻収録)

八雲立つ (7) (花とゆめCOMICS)

八雲立つ (7) (花とゆめCOMICS)

連載:『きみとぼく』(1995年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス八雲立つ』第7巻(1997年)


 『花咲ける青少年』『OZ』『獣王星』などで有名な白泉社の看板作家・樹(いつき)なつみの代表作『八雲立つ』の第七巻の巻末に掲載された短編のテニス漫画(初出は、ソニー・マガジンズ刊の雑誌『きみとぼく』)。作者は現在も同社の『LaLa』にて、『デーモン聖典』を連載中。
 主人公は、交通事故で足を負傷して引退宣言した直後の若きテニス選手・壱宮晢(いちみや・あきら)と、「ケイ」と名乗る謎の少年。オーストラリアの「クイーンズ・アイランド・リゾートクラブ」でテニス・コーチとして雇われた晢の前に、クラブのボーイとして雇われている「自称:20才」(外見年齢は16〜17才)の少年・ケイが現れるところから物語は始まる。クラブの他のコーチとの間での諍いから、テニスコートに立つことになったケイの姿を見て、テニス選手としての天性の才能を見い出した晢が、ケイに強い興味を抱くことになるのだが、最終的には彼はケイの驚くべき正体を知ることになる。
 ケイの風貌や設定は、どことなく越前リョーマと通じる部分があり(ちなみに、発表されたのは本作品の方が先)、その意味では、やはり女性ファンの心を掴むキャラを創り出すという点において、樹なつみには先見の明があったと言えよう。実際、本作品は短編の割には比較的知名度が高く、彼女のファンの間ではそれなりに人気もある。私自身も本作品はかなり完成度が高いと思うし、50頁程度の作品としては実にバランスよく物語が構成されている。女性キャラが殆ど出てこないが、さほどBL臭も感じられないので、普通に男性でも楽しめる作品と言えよう。
 テニス描写自体は少ないが、前半と後半におけるケイのフォームのギャップの描写などはきっちりと描けており、短いながらもテニスを通じて物語的に伝えるべき要素は凝縮されている。それだけに、出来れば続編を書いて欲しいとも思うのだが、この人はそもそもあまりスポーツ物をに長けた人ではないことを考えると、これはこれで短編だからこそ程よく味わえる題材なのかもしれない。