井出知香恵『テニスコートの道しるべ』

初出:不明
単行本:主婦と生活社SJコミックス(1987年) 全1巻


 『ビバ!バレーボール』を初めとして、総計200冊以上の単行本を世に送り出した漫画家・井出知香恵の描いたテニス漫画(単行本内には他に、「ナイルのシンデレラ」「ルクレチア」「ブラボー!ペンパル」も収録)。残念ながら初出が単行本に掲載されていないため、発表年度・掲載誌は不明。作者は現在も芳文社宙出版などで活躍中。ちなみに、少コミなどで活動する漫画家・香代乃は長女。
 主人公は、テニスの名門K学園の一年生ながらレギュラー選手を務める女子高生・立木陽(たちき・よう)。密かに恋心を抱くコーチの香藤(かとう)の恋人と噂される有力選手・姫路京子がK学園に転校してくるところから物語は始まる。京子の圧倒的な実力の前に、練習試合で打ちのめされた陽であったが、その後、彼女とはテニスコートのみならずプライベートでも深い因縁を背負うことになることを知らされることになる。
 初出が不明なので正確には分からないが、京子の通称が「ミニ・エバート」であることや、現代における「モノローグ」形式で「台詞」が描かれている点などから察するに、おそらくは70年代、遅くとも80年代初期の作品であることが伺える。この時代の少女漫画には、「親の世代におけるドロドロ関係に巻き込まれる主人公」という構図が多く、本作品もその系譜に属しているのだが、個人的にはこの最後の「オチ」はなかなか秀逸で、物語としても綺麗にまとめられていると思う。
 テニス漫画としては、まともに試合が描かれる場面は少ないので、やや物足りない感は否めないが、人間ドラマを主体とした短編作品としてはこの辺りが限度であろう。陽達の恋愛の側面に関してもあまり深部まで踏み込んで描写はされなかったが、本作品の主役はあくまで「陽と京子」であることを考えれば、これはこれで物語全体のバランスとしては悪くない。
 ちなみに、本作品はかなりレアな一品で、私が落札した時の金額は、一冊の単行本に対して私が費やした価格としては(現在のところ)最高額である。ただ、作者はそれなりに大物である以上、いずれは文庫化されるかもしれないので、それを気長に待つのも良いだろう。