小山田いく「ゲーム・オーバー」(『どん亀サブマリン』収録)

初出:不明
単行本:秋田書店少年チャンピオンコミックス『どん亀サブマリン』(1987年)


 『すくらっぷブック』や『ぶるうピーター』など、『週刊少年チャンピオン』を中心に数多くの作品を残した小山田いくの初の短編集に収録された作品。残念ながら初出記載がないので、掲載誌は不明。単行本内には他に「むかしキュービック」「空と呼べ」「無節操に会談」が収録されている。ちなみに、『軽井沢シンドローム』などで有名なたがみよしひさは作者の実弟である。
 夏休みに、女の子目当てに海岸沿いの避暑地(?)でテニスボーイのふりをして野宿していた高校一年生の佐倉連(れん)と小津圭介が、運良く遭遇した女子校のテニス部の合宿を覗き見しているところから物語が始まる。夜になって、テニス部の一年生である奥原みなわと知り合った二人が、そのテニス部の伝統の「対抗戦時のレギュラー決定のための宝探し」というゲームの存在を知ることになる、という物語。
 連と圭介はテニスの素人なので、彼等が練習する場面はあるものの、テニス漫画としてのメインの見せ場はみなわを中心に展開される。ただ、この人はデフォルメ絵とリアル絵で全く異なる画風を持っているのだが、本作品は全編通してデフォルメ絵で描かれているので、その意味では絵的にはあまり迫力はないのだが、やはり漫画自体の組み立て方が上手い人なので、僅かな描写でも緊迫感は十分に伝わってくる。
 物語自体はそれほどインパクトはないものの、23頁という短い頁数で様々な要素を詰め込み、冗長になりがちな部分を綺麗にまとまった、実に完成度の高い作品だと思う。ただ、やはり80年代独特のセンス(「ガール・ハント」など)は今の感覚で読むと非常に違和感があるので、その辺は考慮に入れておく必要があろう。
 また、この人のデフォルメ絵は非常にクセが強いので(基本的に、たがみよしひさと同系統の絵と言って良い)、一部では今でも熱狂的なファンがいる一方、その絵柄で敬遠してしまう人が多いことが残念な点である。まぁ、最初は違和感があるとは思うが、読み進めていくうちに徐々にこの人の作品世界にハマっていく人も多いので、まずは試しにでも手に取ってみることをお勧めしたい。