武石正道（原作）／里見桂（漫画）「恋に完敗（ラブゲーム）」（『よろしく春平』第２巻収録）

よろしく春平 2 (サンコミックス)

初出：『週刊少年サンデー』（1980年）
単行本：朝日ソノラマサンコミックス『よろしく春平』第2巻（1982年）

　『よろしく春平』の第2巻の巻末に掲載されている短編作品。表代作と同様、武石と里見の合作である。初出は、週刊少年サンデーの本誌。時期的には、『ハニーハンター』と『よろしく春平』の間の時期と推測される。
　物語は、高校入学直前の飛鳥裕（ユウ）が、同学年のテニス少女・村井えりなをナンパするところから始まる。「モテそうだから」という理由でテニスボーイを装ってえりなに近付いたユウだが、実は彼は野球部の新入部員であり、そんな初心者同前の彼が、なりゆき上、野球部とテニス部のメンツをかけて、えりなと対決することになる。
　上記の通り、ユウの性格や設定は『よろしく春平』の春平と非常に似通っており、その意味では同作品の原型と言っても良かろう（女性陣に関しては、ヒロインのえりなはレミ、テニス部部長の片桐玲子はメグの原型と思われる）。攻守に優れたキンタマ（金の卵）として上級生から期待されるほどの運動神経を持つ彼が、試合中にその特性を生かした我流テニスを生み出していく過程が描かれている。春平が投手であるのに対して、ユウは外野手であり、その点でのテニスへの野球技術の適用の仕方が微妙に異なった描写となっている点も面白い。
　まぁ、恋愛物語としては別にどうということのない内容なので、この作品に魅力を感じるかどうかは、やっぱりヒロインに対する主人公の感情を読者が共有出来るか、という点であろう。えりなはデザイン的には典型的な「当時の里見桂のヒロイン」の顔なのだが、内面的には（ユウにあっさり騙される点から見ても）より純粋というか単純なので、その意味では「男性にとって都合の良い女性像」と言って良い。そのようなタイプのヒロインに魅力を感じるかどうかによって、この作品の評価は大きく変わることになるだろう。まぁ、私はこの人の絵は好きなので、無条件に「萌え」は感じるんだけどね。