宮脇ゆきの『きみが天使に見えるとき』

きみが天使に見えるとき 1 (フラワーコミックス ゆきのプロジェクト 1)

きみが天使に見えるとき 1 (フラワーコミックス ゆきのプロジェクト 1)

連載:『ちゃお』(1997年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1998年) 全1巻


 『1/2』シリーズや『ブリリアントな魔法』『プリンセスVer.1』などで有名な『ちゃお』の人気漫画家・宮脇ゆきのが、1997年に同誌で描いた短期連載作品。その後、「ゆきのプロジェクト」という単行本シリーズの第一巻の表題作として収録された(同時収録作品は「5年目のシグナル」と「きみは青春ストライカー」)。
 物語は、主人公の松嶋有香が、幼少時に、道路に転がるテニスボールを追い掛けて、交通事故で足を骨折するところから始まる。その後、骨折は完治したものの恐怖心から足を動かせずにいた時に、「タカアキ」と名乗る少年との出会いを通じてテニスに関心を持ち、テニスをプレイしたい一心で、松葉杖無しで歩けるレベルにまで回復することになる。しかし、緊張時には再び足が動かなくなってしまう、という後遺症を残したまま、舞台は10年後へと移り、高校テニス部に入部した彼女の姿が描かれていくことになる。
 テニス描写自体はあくまで「90年代の少女漫画の作風」の範疇内での描かれ方ではあるが、それでも、この当時の『ちゃお』の中では珍しいほどに「テニス」を物語の中心に据えた作品であり、スポーツ漫画を得意としていた初期・宮脇ゆきのの真骨頂とも呼ぶべきテンポの良い物語が展開されている。
 ただ、作者としては、当初はもっと長期連載用に暖めていた題材だったらしく、それを三回連載の枠の中で描こうとして、伝え切れなかった部分もあった、と単行本のコメントスペースで述べている。確かに、テニスの場面はきっちりと描かれているものの、最重要人物である「江口先輩」の設定に関しては今一つ説明不足のように思えるし、彼の言動もやや唐突に感じられる。また、有香以外の女性キャラに殆ど見せ場がないまま終わってしまっている点も、少々物足りない感はある。また、個人的にはラストの場面ももう少しきっちりと描いて欲しかったとも思う。
 とはいえ、合計100頁の物語としては非常によくまとまった内容だと思う。テニスと恋愛、そして主人公の精神的成長という三つのテーマを、これだけ自然に一つにまとめた作品は、実は結構貴重なのではなかろうか。