朔田浩美『ちょうちょ ちょうちょ』

初出:『デラックス別冊少女コミック』(1996年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1996年) 全1巻


 現在、講談社の『One more kiss』にて「東京湾岸バレエ団☆」を連載中の朔田浩美が、小学館時代に描いた短編作品(その後、「朔田ひろみ傑作集」の第三巻の表題作として単行本化)。作者は他に幻冬社芳文社ソニーマガジン社など様々な雑誌社から単行本を出版しており、自ら「放浪の漫画家」と名乗っている。
 主人公は、アメリカにテニス留学している大富豪の娘・狭山京子。犬猿の仲の兄・一也の誕生日パーティーに呼ばれた彼女は、兄には会いたくないものの、兄の親友であり、彼女の想い人でもある榊原と会えることを楽しみに帰国し、パーティーに出席する。そんな彼女の気持ちを知らない榊原は、一也と京子の仲を取り持とうとするが、それがかえって二人の感情を逆撫ですることになる…………、という物語。
 本作品のタイトルは、物語の冒頭で描かれる京子の回想シーンの中で、子供の頃に自宅の庭で榊原に言われた「ちょうちょってね、毎年同じ道を通るんですよ」という台詞に基づいており、その台詞がこの物語における京子と榊原の関係を語る上での一つの鍵となっている。
 一応、京子は本格的にプロを目指してアメリカに留学しているという設定なのだが、本編中で彼女がテニスをするのは、かつてのライバルで現在はマウンテンバイク選手に転向した寺田あかとの練習試合の場面のみであり、実質的にはあまりその設定自体に意味はない。おそらく、彼女の「高飛車なお嬢様」という設定を際立たせるための一つの装飾としての設定なのだろう。ただ、そのような彼女の性格を示す上で、寺田あかが彼女のテニスを引き合いに出して言い放った台詞は、なかなか言い得て妙な言い回しだと思う。
 全体的に、絵柄も台詞もクセの強い作風で、好き嫌いは分かれるタイプだとは思うが、独特のテンポで繰り広げられる物語展開はなかなか味わい深く、どこか不思議な魅力が感じられる、そんな作品である。