佐藤由惟「オフコースを聞きながら」(『MUE48時間』第1巻収録)

Mue48時間 1 (フラワーコミックス)

Mue48時間 1 (フラワーコミックス)

初出:『デラックス別冊少女コミック』(1989年)
単行本:小学館フラワーコミックス『MUE48時間』第1巻(1991年)


 『保健室にひそむ霊』や『幽霊がまつ体育館』など日本児童文学者協会のオカルト漫画などで活躍した佐藤由惟が、別コミ時代に描いた短編作品(その後、『MUE48時間』の第一巻の巻末に収録)。近年の作者は講談社のデザートKCから『芝生のシンデレラ−横峰さくらヒストリー』を発表している。
 主人公は、かつて中学女子ランキング10位にまで登り詰めた実力者でありながら、現在は強剛とは程遠い女子高のテニス部に所属している内藤つばさ。彼女が他の部員達と共に旧軽井沢に合宿に来ていた時に、学生チャンピオンの乃間冴貴(のま・さえき)と出会うところから物語は始まる。つばさのプレーの中に超一流の素質を見い出した彼は、彼女のことを本気で指導しようと考えるが、彼女は一向にそれに応えようとしない。そして物語の終盤で、乃間と読者は衝撃的な事実を知らされることになる。
 全体通してテニスの場面自体は少ないが、それでも打球の描き方などは非常に丁寧であり、また作者自身も単行本の帯裏で「好きなスポーツはテニスで、見るのもやるのも大好き」と語っている通り、随所にその思い入れの強さは感じさせる。
 個人的な好みとしては、つばさはモロに私のストライクゾーンのキャラなのだが、本作品全体の中でより印象的なのは、彼女の親友の小瀬麻弓の、序盤と終盤のキャラの変貌ぶりである。これ以上書くとネタバレになってしまうのだが、とにかくこの人はそういった「ギャップ」を描くのが上手い人なのだなぁ、ということを痛感させられた。
 ちなみに、タイトルの「オフコース」とは、無論、あの小田和正率いるフォークバンドのことであり、彼等の某有名曲が本作品において重要な鍵を握ることになる。この曲をモチーフとした作品はおそらく数多く存在するだろうが、この作品ほど見事に独自の解釈でこの曲の歌詞を生かした漫画は他にないのではなかろうか。そう言いたくなるくらい、私の心に響いた作品であった。