田村由美「西向きの部屋」(『17日めのショパン』収録)
17日めのショパン: タムのなんでもカプセル 3 (フラワーコミックス タムのなんでもカプセル 3)
- 作者: 田村由美
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1987/10/26
- メディア: 新書
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単行本:小学館フラワーコミックス『17日めのショパン』(1987年)
『ちょっと英雄してみたい』の作者でもある少女漫画界の大御所・田村由美が別コミで描いた初期の短編作品。単行本としては、「タムのなんでもカプセル」シリーズの第三巻に相当する『17日めのショパン』に収録されている(同時収録作品は他に、「シャワー・ロード」と「乙女座★レボリューション」)。
主人公は、テニスの学生選手権四位の実績を持つ女子大生・吉村まよこ。親に内緒で、恋人の水野高道と同棲生活を送っていた彼女に対して、高道が実家の大阪に帰ることを宣言するところから物語は始まる。その上で、テニス選手としてプロを目指すか否か、高道について行くか否か、といった様々な悩みを抱えつつ、自分の生きる道を模索していくまよこの心情描写を中心として、以後のストーリーは展開していく。
大学生のテニス選手を主人公とした作品は、本格的にプロを目指して努力する選手達の物語よりも、「趣味のテニスサークル」に所属する者達の青春群像を描いた物語の方が圧倒的に多いのだが、本作品はその両方の要素を持ち合わせた珍しい作品である。一般的に一流のテニス選手は10代でプロデビューするので、大学のテニス部からプロ入りする「遅咲き型」は珍しいのだが、それはそれで一つの漫画の題材として面白いテーマであるし、それを取り上げた田村由美の着眼点の鋭さはさすがである。
といっても、テニスの場面はほんの僅かで、実質的には高道との今後の関係について迷うまゆこのモノローグが作品の大半を占めているのだが、まぁ、これはあくまで短編作品であることを考えれば、やむをえぬことであろう。
絵的には「いかにも80年代」といった淡い雰囲気の作風なのだが、個人的にはこの頃の田村由美のタッチの方が今よりも好きだったりする(まぁ、これは私の趣味が古いだけなのだが)。というか、やっぱり上手いよ、この人、色々な意味で。それぞれの時代でそれぞれの流行に合わせた形で自分の世界を展開出来る漫画家だからこそ、20年以上にわたって第一線で活躍出来るんだなぁ、と改めて実感させられた。