長江朋美「PUREを伝えて」(『私の王子様』収録)

私の王子様 (フラワーコミックス 長江朋美PURE HEART)

私の王子様 (フラワーコミックス 長江朋美PURE HEART)

初出:『別冊少女コミック』(1991年)&『デラックス別冊少女コミック』(1992年)
単行本:小学館フラワーコミックス『私の王子様』(1999年)


 『いけいけ!さくら』『そりゃないぜ☆ダーリン』『あなたのオモチャ』シリーズなどで有名な長江朋美の初期の作品。正確には、「PUREを伝えて」と「PUREを信じて」という二本の短編なのだが、本レビューでは一つのシリーズ作品として扱う。なお、単行本としては『私の王子様(長江朋美 PURE HEART SELECTION 3)』の中に収録されている(同時収録は他に「笑顔がスキッ!」と「失恋同盟」)。
 物語は、高校一年の主人公・川端沙弥の父親が、彼女の「憧れの人」でもある同じ高校の同学年のテニス部員・寺沢辰志を、家に連れてくるところから始まる。自分と寺沢の「意外な関係」を知らされた沙弥は、その日の夜から彼と共に生活することを強いられることになるだが、そのことに動揺しながらも、新たな環境下に適応しようと努力し続けつつ、彼への想いに迷う彼女の姿が描かれる。
 基本的に沙弥視点で展開される恋愛物語なので、彼女の心情描写を軸としてストーリーは展開していくのだが、一方で(特に「〜伝えて」においては)寺沢の行動原理が殆ど説明されないまま話が進んでしまうため、なんだか釈然としないまま話が決着してしまった感があるのだが、まぁ、これはこれで少女漫画としての一つの手法と言って良かろう。
 テニスに関しては、本当に背景設定として描かれているのみなので、テニス描写を期待して読むべき作品ではない。ただ、この設定で物語を作るのなら、やっぱりテニス部員という設定が一番なんだろうね、と思わせるような(良い意味で)教科書的な活用法と言えよう。
 まぁ、題材自体はそれほど珍しいテーマではないのだが、「〜伝えて」の最後のオチはそれなりに面白いし、「〜信じて」のラストも、個人的には結構好きな展開ではある。二本の掲載誌が微妙に異なることから察するに、おそらく最初は単発の読切として描いた作品が好評だったので、急遽続編を描くことになったのだろうが、そうなったのも頷ける内容である。