『超香少年サトル』

連載:『週刊少年チャンピオン』(1995〜1997年)
単行本:秋田書店チャンピオンコミックス(1995〜1997年) 全10巻


 かつてサンデーで『恐竜カーニバル』、コロコロで「わんわんパラダイス」を連載していた上田悦が、チャンピオンに移籍して描いた作品。近年の作者は「日本マンガ塾」にて講師を務めているらしい。
 主人公は、かつて朝廷に「香の番」として仕えた香野院家の次期当主候補である香野院サトル(14才)。彼は常に意味深かつミステリアスな言動を繰り返しながら、同級生の田原正司や川村めぐみ(テニス部)を初めとする様々な人々の抱える悩みやトラブルを、特殊な「香り」の調合や天才的な嗅覚を使って解決していく。
 全編通した感想としては、「よく出来た少年漫画」という印象である。基本的に一話完結で、物語の形式もやや型にはまった「お約束」的な展開なのだが、「香り」という特殊な題材を用いて、実に奇抜なアイディアが鏤められながらも、全体的に地に足のついた「安心して読める作品」に仕上がっている。
 テニス描写に関しては、上述の川村めぐみの他にもテニス部員として、同級生の矢野美子や今井由美子、男子部員の沢本や上条といった面々が登場し、僅かではあるがテニスの場面も存在する。なお、彼女等は当初はゲストキャラ扱いだったが、その後も何度か再登場を繰り返し、特に矢野は途中から準レギュラーにまで昇格する。このように、キャラを使い捨てにせずに描き続けてくれるのも本作品の魅力なのだが、一方で以前の設定が微妙に忘れられている箇所もある(例:矢野は初登場時には「麻衣子」と呼ばれていた)。
 残念ながら人気はイマイチだったようで、単行本は殆ど重版されずに廃版となってしまい、現在では入手が非常に困難である。物語としての質は非常に高いのだが、やはり絵があまりにも古過ぎたのが災いしたのだろうか(むしろ、当時の『ガンガン』辺りで連載した方が、もう少し正当に評価してもらえたのかもしれない)。
 最後に、本レビューならではの蛇足を一つ。基本的にサトルは、魔太郎などの秋田系魔少年の系譜だと思うのだが、小柄・三白眼・帽子・天才・生意気・無愛想といった彼の特徴は、どこか越前リョーマにも似ているような気がする、と思うのは私だけだろうか。