しりあがり寿・西家ヒバリ「私のテニスは活き造り!!」(『底抜けカフェテラス』収録)

底抜けカフェテラス (ウィングス・コミックス)

底抜けカフェテラス (ウィングス・コミックス)

初出:『別冊・花とゆめ』(1988年)
単行本:新書館ウィングスコミックス『底抜けカフェテラス』(1991年)


 『真夜中の野次さん喜多さん』や『地球防衛家のヒトビト』などで有名なシュール界の巨匠・しりあがり寿と、その妻で『サイケデリック・ラブラブシアター』などの作者である西家(サイケ)ヒバリが合作で『花とゆめ』の別冊で描いた六本の短編シリーズの中の一つ。単行本としては、ウィングスで連載された「パーマの華」などの七本の短編シリーズと共に、新書館から『底抜けカフェテラス』の名で出版された(ちなみに、表題作は書き下ろし)。なお、西家ヒバリにとってはこれが初の単行本作品である。
 息子と二人で横町の洋風屋敷で「サロン・ド・魚屋」を経営する主人公シモン・ド・ベリヤール(通称:オヤジ)が、一念発起して「テニスのコーチ」を目指すところから物語は始まる。東都女子高校テニス部に(無理矢理)赴任した彼は、スーパールーキーの丸岡秀美や、日本一の縦ロール女・オッチョ夫人らに対して、世界のトップ選手達の技法を引き合いに出しながら、独自の理論で男子テニスの手法を用いて彼女等を指導することになる。
 …………このように書いてしまうと、実は本作品の面白さは全く伝わらないのだが、わずか8頁の短編なので、ネタのエッセンスをバラすと読む楽しみが無くなってしまう。ただ、とにかく本作品の凄いところは、テニス部の練習風景が物語の約半分を占めているにも関わらず、ラケットはタイトル頁にしか登場しない、ということである。それが何を意味しているかは、実際に読んでみた上で理解してもらう他にはない。
 とりあえず、この単行本に収められた作品群は、どれもひたすらシュール感だけで押し切った短編ばかりなので、感性的に合わない人々には全く理解出来ないであろうし、正直言って私もついていけない話もある。ただ、その中でも本作品は、流れるような全体の構成、密度の濃いネタ、そしてオチの歯切れの良さなどから、比較的読みやすい部類だと私は思う。まぁ、あまり一般的にオススメは出来ないが、いわゆる「ツッコミ不在のボケ倒し」の美学が理解出来る人なら、一度は読んでみる価値がある作品と言えよう。