今里孝子(原作)/萩尾望都(漫画)「マリーン」(『ゴールデンライラック』収録)

ゴールデンライラック (小学館文庫)

ゴールデンライラック (小学館文庫)

連載:『別冊セブンティーン』(1977年)
単行本:小学館文庫『続・11人いる!−東の地平・西の永遠』(1977年)
    小学館プチフラワーコミックス『ゴールデンライラック』(1982年)
    小学館プチコミックス『萩尾望都作品集9 半神』(1985年)
    小学館文庫(新版)『ゴールデンライラック』(1996年)


 『ポーの一族』や『トーマの心臓』など、数々の名作を世に送り出し、竹宮恵子と共に「花の24年組」を代表する巨匠・萩尾望都の短編作品の一つ。原作者の今里孝子とは、後に萩尾望都のマネージャーとなる文筆家・城章子のこと。掲載誌である『セブンティーン』は、今でこそファッション専門誌であるが、当初は『マーガレット』の姉妹誌として創刊された女性総合誌であった。
 主人公は、病床の母の代わりにペイトン家で使用人として働く少年エイブ・リーマン。成績優秀だが貧乏であるが故に苦しい生活を強いられていたエイブの前に、マリーン(海)と名乗る謎の少女が現れるところから、物語は始まる。彼女との触れ合いを通じて、少しずつ生きる希望を得ていったエイブは、やがてテニス・コーチのテリー・ローブにその才能を見い出され、プロのテニス選手として台頭していくことになる。しかし、そんな彼の成長とは対照的に、なぜかマリーンの姿は初めて会った時と全く変わらず、やがてエイブはマリーンの意外な正体を知ることになる…………。
 原作付きではあるものの、作品全体から醸し出される雰囲気は、まさに萩尾望都の世界そのものであり、最後に待ち受ける幻想的かつ悲劇的な結末は、不思議な読後感を読者に与える。当時の少女漫画界に革命を巻き起こした「24年組」の第一人者としての真骨頂と言えよう。
 一方で、実はこの作品はスポーツ漫画として読んでもかなり面白い。勝つために手段を選ばぬエイブのテニスは「気品も優美さもない」と酷評され、貴族のアマチュア・チャンピオンからも「金のためのテニス」と揶揄される。まだアマチュアリズムの美学が生きていた時代において、プロ選手としてのエイブが彼等と口論する場面は、本作品における隠れた名シーンの一つであり、そのような観点から見ても、本作品は非常に興味深い内容であると私は思う。