本橋馨子「噂になりたい」(『あぶないストライカー』第1巻収録)

あぶないストライカー 第1巻 (花とゆめCOMICS)

あぶないストライカー 第1巻 (花とゆめCOMICS)

初出:『花とゆめ』(1991年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス『あぶないストライカー』第1巻(1994年)


 『第三の帝国』や『ストロベリー・デカダン』などで有名な本橋馨子の初期の短編作品。『花とゆめ』に掲載され、『あぶないストライカー』の第一巻の巻末に収録された。近年の作者は同人誌などでも精力的に活動中。
 主人公は、東京の聖泉大付属聖泉学院中学の三年生・唐沢薔子。レディース漫画家の母と、双子の弟の貴明の3人で暮らす彼女は、学校では「お嬢様」扱いされ、「ミス聖泉中」と呼ばれるほどの美貌の持ち主でありながら、家では母親の描くベッドシーンにトーンを貼るというギャップのある生活を送っている彼女が、高等部のテニス部の次期主将と言われる小早川総一郎に恋心を抱き、彼を振り向かせるために常識外れの手段に出る、という物語。
 一言で説明するなら「真顔系ラブコメ」である。ひたすら非常識な薔子、母、小早川といった面々に、激しいツッコミを入れることの出来ない貴明が粛々と巻き込まれていく姿が面白い。一昔前の嘆美系の絵柄(+白泉社ならではのお約束的展開)で、それなりにシリアスな陰謀劇が描かれている筈なのに、彼女等の軽妙かつ不条理な台詞回しが、どこか不思議な笑いを生み出している。
 ただ、冒頭の会話でチラッと語られた「タキシードの紳士」こと篠倉遼平と薔子の一件が本編で描かれていないので、彼が登場した時にその位置づけが今ひとつ分かりにくいなど、漫画としての「見せ方」の点ではやや難もある。
 テニス描写に関しては、小早川がラケットを振っている場面が一コマ、ラケットを手に持っている場面が3頁登場するだけなので、正直、スポーツ漫画としても部活漫画としても、特に期待すべき要素は無い。
 正直、途中までは「どうやって終わらせる気だ、これ?」と思っていたのだが、最後のオチは個人的に結構好き。まぁ、強引かつ不条理で、「ここまで来て、それかよ!」とツッコみたくなるような展開ではあるが、こういった作風のラストにはふさわしい落とし方だと思う。