加藤文治(原作)/柴田昌弘(漫画)「魔法のラケット」

初出:『別冊マーガレット』(1973年)
単行本:未発売


 『紅い牙』シリーズなどで有名な柴田昌弘が、1973年の『別冊マーガレット』11月号にて描いた短編作品。当時の作者は少女漫画界随一のSF作家として有名であったが、やがて少年漫画→青年漫画へと活躍の場を移し、現在は京都精華大学にて非常勤講師を務める。ちなみに、妻は「明日へのストローク」の市川ジュン
 主人公は、ニューヨーク郊外のリンカーン高校に通う女子テニス部員ヴァレリー・グリーン。テニスの腕前は今ひとつの彼女が、化学部の友人マンディの手によって偶然生み出された謎の液体をラケットにふりかけることによって、特殊な力を得ることになる。彼女と仲の悪かった部長のサマンサ相手に快勝したことを契機に、次々とテニスの大会に出場しては連戦連勝を重ねていくことになるが、サマンサはそんな彼女の快進撃に疑念を抱くことになる、という物語。
 全体としては、いかにも当時のSF少女漫画的な展開の作品であり、柴田昌弘にしてはややオチが弱いのが難点ではあるが(おそらくそれ故に、未だに単行本にも収録されていないのであるが)、化学薬品(つまりはイカサマ)を用いてテニスで勝利するという発想は、意外に珍しくて面白い(まぁ、SF考証的には色々無理があるのだろうが)。
 テニス描写に関しては、あまり濃密な内容とは言えないが、作品全体のバランスを考えても(そもそも、内容的に無理のある話なので)これくらいの軽い描写が適切であろう。むしろ気になるのは、物語全体のトーンがシリアス調なのに、途中で書き足される柱コメントのツッコミの口調がやたらカルいことである。この辺りは当時と今のセンスの違いなのかもしれないが、なんだかこの柱コメントが妙に浮いてる気がしてならない。
 まぁ、総評としては、良くも悪くも独特な内容の作品で、物語的にはあまり完成度が高いとは言えないが、『エースをねらえ!』が始まったテニス漫画全盛期の1973年末の時点で、柴田昌弘がこのような漫画を描いていたという事実だけでも、興味深い事実だと私は思う。積極的にオススメはしないが、漫画史的には一読の価値はあるかと。
 ※コメント欄にて、重要な指摘アリ。