木内千鶴子「コスモスさんと赤とんぼ」

連載:『別冊マーガレット』(1973年)
単行本:未発売


 1950年代後半から1970年代にかけて若木書房や集英社活躍した木内千鶴子が、「魔法のラケット」と同じ『別冊マーガレット』1973年11月号にて描いた作品。作者は『天国がみつからない』『友情のひみつ』などの単行本を残した後、80年代以降は地元香川でイラストレーター兼イラスト教室講師へと転身。海外でも個展を開くなど幅広く活躍しつつ、近年は香川短期大学などでの非常勤講師も務める。
 主人公は、高校一年生で新聞配達のバイトをしながら女子テニス部の有望株として活躍する千芽まゆみ。彼女は、同じテニス部の一年の有望株として活躍する名家の令嬢・白峰亜記のことを激しく敵対視し、彼女にだけは負けまいと奮闘するものの、亜記のお嬢様育ち故の優雅な対応にペースを乱され、常に空回りしてしまう。しかし、一見恵まれた境遇にある完璧人間のような亜記は、実は重要な秘密を抱えていた……、という物語。
 物語としては、典型的な60〜70年代的なテーマの内容であるが、まゆみと亜記それぞれの対照的なモノローグの使い方が実に上手い。さすがに貸本漫画時代からのベテラン作家だけに、当時の様式における「読者を感動させる術」に長けた構成には唸らせられる。
 ただ、正直な話、絵に関してはやはり世代的な限界なのか、特にテニスの場面の描き方については、テニス漫画全盛期であったこの時代の他の諸作品と比べて、単純な美しさという意味でも躍動感という意味でも、今ひとつ魅力を感じることは出来ない。その後の画家としての数々の作品を見る限り、決して画力がない人ではないと思うのだが、この時点での彼女の画風が、既に当時の少女漫画界の潮流とは相容れられない旧時代の技法に捕われてしまっていたのかもしれない。
 ちなみに、「コスモスさん」が亜記を意味する表象として物語の終盤で用いられることになるのだが、「赤とんぼ」という言葉は最後の最後まで登場しなかった。おそらくはまゆみのことだと思うのだが、あえてこのように本編では用いない比喩をタイトルに使うというのも、面白いセンスと言えよう。