石渡治『火の玉ボーイ』

火の玉ボーイ 2 (少年サンデーコミックス)

火の玉ボーイ 2 (少年サンデーコミックス)

連載:『週刊少年サンデー』(1982〜1985年)
単行本:小学館少年サンデーコミックス(1983〜1985年) 全14巻
    小学館少年サンデーコミックスワイド版(1997〜1998年) 全7巻


 『LOVe』の作者・石渡治が、出世作『B.B.』の前に『週刊少年サンデー』で描いていた作品。近年の作者は『週刊ヤングサンデー』にて自転車漫画『Odds』を描いていたが、同誌休刊に伴い完結。以後は『YSスペシャル』にて外伝の『Odds plus 1』を連載。
 主人公は、夜逃げした父親を追って湘南を訪れた高校一年生の火野玉男(通称:タマ)。サーファー達に絡まれていた神大寺桃子(通称:モン)を助けたことを契機にウィンドサーフィンの勝負を受けることになった彼が、その後もテニス、陸上、バンド、ハングライダー、アイスホッケーなど、様々なことに挑戦していく姿が描かれる。
 基本的には友情、恋愛、スポーツなどを題材とした青春群像であり、ストレートで青臭い人情モノを得意とする作者の本領が十二分に発揮された作品である。タマは空腹になると「ハングリィ!」の掛け声と共にバーサークして超人的な力を発揮する能力の持ち主なのだが、この能力の使い方を巡る駆け引きも面白い。
 そして、1巻末〜2巻にかけて「テニス編」が展開されるのだが、この内容が凄まじい。なぜか土俵が設置されている部室、筋肉ムキムキで上半身裸の先輩達、発火作用で木をなぎ倒すほどの威力を持つキャノンボール・ショット、そして最初から相手をKOさせることしか考えない試合展開。どれをとっても超一級の大暴走である。
 無論、こんな無茶苦茶な展開でテニスを描き続けられる筈もなく、実質1巻でテニス編は終わってしまう(そして、この「格闘テニス」をより定式化した形で完成させたのが後の『燃えるV』と言えよう)。しかし、その後の種目においても、ヘルメットを被らずにスティックで殴り合うアイスホッケーなど、ルール無用の超展開は繰り返されていく。
 故に、スポーツ漫画としては『B.B.』や『LOVe』に比べてアラが目立つが、悪ノリ青春漫画としては非常に面白い。洗練されたスポーツ漫画がもてはやされる昨今だからこそ、こんな作品の価値が再評価されるべきではなかろうか。