ひらいけい『YUMEMI白書』

連載:『月刊少年ジャンプ』(1984〜1985年)
単行本:集英社創美社)ジャンプスーパーコミックス(1985年) 全1巻


 かつては小学館の学習雑誌で「井口ユミ」の名で『SWEETらぶらぶ』などを連載し、その後は「速水憂海」の名で美少女コミック界で活躍した作者が、「ひらいけい」名義の時代に描いた作品。この名義の他の作品としては「ママはバージン16歳」(月刊少年チャンピオン連載)などがある。
 主人公は、中学一年生の花都夢実(はなと・ゆめみ)。幼馴染みで初恋の相手である一歳年上の火野現人(ひの・あらと)と文通していた彼女が、彼と同じ学校に通うために、彼が生徒会長を務める月星学園中等部へと転校してくるところから物語は始まる。しかし、現人は育った家庭環境故に女嫌いになってしまっており、夢実を目の前にすると反射的に拒絶反応を見せてしまう。そんな二人が、様々な事件を通じて少しずつ距離を詰めていく過程が描かれていく。
 作風としては、女子寮内での着替えや入浴シーンなどを多発する「ちょいエロ漫画」に分類される内容なのだが、絵柄がやや低年齢層を対象とした少女漫画に近いタッチである上に、夢実の性格がひたすら乙女(お子様)モードなため、月ジャン連載作品としては異色の雰囲気を漂わせている。そもそも、女性視点で男性を追いかけるタイプのラブコメ自体が、当時のジャンプ作品としては極めて稀な事例と言えよう。
 そして、二人の間に割って入る人物として、夢実にモーションをかけ続ける生徒会副会長・上柳直樹が物語の序盤から登場するのであるが、彼はテニス部所属であり、第4話では彼が夢実をテニス部へと勧誘する物語が描かれる。ただし、テニス描写自体は練習風景が若干描かれる程度なので、あくまでも「色男役」としての上柳を演出するための設定としての役割にすぎない。
 色々な意味で異色作であり、全体的に独特のテンポで描かれる内容なので、あまり一般的にお勧め出来る作品ではないが、当時の月ジャンの漫画雑誌としての幅の広さを理解する上で、歴史的には面白い資料だと思う。